“10番目の男というルールだ。もし仲間のうち9人が同じ情報をみて全く同じ結論に行き着いた時、10番目の男はそれに反する論証をする義務がある。どんなに奇抜に思えても 10番目の男は他の9人が間違っているという仮説を探らなくてはならない。” – ワールド・ウォーZ / World War Z (2013)

投稿日: カテゴリー: CINEMA, QUOTES

The Tenth Man. If nine of us look at the same information and arrive at the exact same conclusion, it’s the duty of the tenth man to disagree. No matter how improbable it may seem, the tenth man has to start digging on the assumption that the other nine are wrong.

10番目の男というルールだ。もし仲間のうち9人が同じ情報をみて全く同じ結論に行き着いた時、10番目の男はそれに反する論証をする義務がある。どんなに奇抜に思えても 10番目の男は他の9人が間違っているという仮説を探らなくてはならない。

World War Z – 2013

2013年に公開されたブラッド・ピット主演の映画、World War Z に出てくる「10番目の男」というルールについて。イスラエルの情報機関が70年代、第四次中東戦争で危機に関する情報を得ながら対応を誤ってきた経験から「10番目の男」という原則に方針を転換したのだ、というくだりがある。独特の習慣と教えを持つユダヤ人が編み出した、いわゆる集団思考(groupthink)に関する原則として描かれている。

集団思考は Wikipedia 集団思考 を読むと早いが、要するに集団による意思決定は、時として鍵となる情報を過小評価することがある。「あるはずがない」という心理が集団で過剰に醸成され目の前の危機を見逃す、という集団意思決定の傾向を説明するものだ。

このセリフは、イスラエル諜報員がイスラエルがアウトブレイク対抗に成功した理由を主人公に説明する短いシーンで登場する。傍受したメモの「ゾンビと戦っている」という表現について、みなが「ゾンビとは何かを示唆する言葉だ」と推測したのに対し、その諜報員は「ゾンビとはゾンビそのもののことを示しているのでは」と、通常ではありえない仮説を着想した。

仕事で思うところあり(笑)、電車で「World War Z にそんな話があったな、あれ、ユダヤ人には本当にあるのだろうか」と思った。この集団思考のコンセプトが興味深いのか、このゾンビ映画が印象が薄くこの教訓が妙に頭に残った人が多いのか、たくさんの人がこのルールについて書いているが、日本語でまとまっているものが少ないのでメモしておく。

ユダヤ教における死刑と体罰

Capital and corporal punishment in Judaism にある “Stringencies of evidence in capital cases” を紹介する例がいくつかあった。「死刑判決を扱う裁判において裁判官の全員が有罪と判断した場合、被告は釈放された」とある。23人もいる裁判官が無罪を示す兆候を全く見つけることが出来なかったということであり、そのようなケースでは裁判自体が何か問題がある、という考え方である。

ちなみにこの23人の裁判員制度も面白い。裁判員は有罪側10人、無罪側10人、争う本人達が選んだ各1人の裁判員、そしてその裁判員が選ぶ1人の裁判員で構成され、死刑を決定する際は過半数+2の13人、無罪の場合は+1の11人で決定されるというルールだ。ユダヤ人ならではの知恵というか、興味深い。

Devil’s advocate – 悪魔の代弁者

この手の集団思考を防ぐ論証手法は Devil’s advocate と呼ばれる。悪魔の代弁者とは故意に多数派とは別の論証を行うシステムのことで、バチカンでかつて行われていた列聖調査審問検事、聖者を選ぶ際に指名された者が候補者を悪魔の立場から徹底的に批判し、本当に聖者にふさわしいかどうか審問する儀式を連想する人も多い。カトリック教徒が多いんだね。

Devil’s advocate というと、多数派にあえて反論することで議論の新たな展開をはかるテクニック、と覚えておけばいい。

イスラエル参謀本部諜報局の情報評価手法

World War Z (2013 movie): Do the Israelis really have a 10th man doctrine? にある指摘が面白い。かつてイスラエル国防軍の研究部門を率いた Yosef Kupperwasser の論文、Lesson’s From Israel’s Intelligence Reforms – イスラエル情報機関の改革による事例から(PDF) の中で、Devil’s advocate – 悪魔の代弁者手法を活用したイスラエル参謀本部諜報局の徹底した情報評価の手法が紹介されている。

Still, even though it is advantageous to have AMAN within the IDF, there is a fear that the situation will cause intelligence of cers to have a “military state of mind” and recommend only military solutions. How- ever, this is not the case. As the organization responsi- ble for national intelligence, AMAN has many experts who focus on political issues. But the key reason that AMAN has not become an arm of the military is that it has in place a number of tools to ensure the promo- tion of diverse views. First, in order to make sure that different and opposing opinions are heard within the Israeli intelligence community, AMAN has a culture of openness, where individuals are expected to voice dissenting opinions. The organizational slogan that re- ects this openness is, “Freedom of opinion, discipline in action.” AMAN has two other tools that promote di- versity: the “devil’s advocate” of ce and the option of writing “different opinion” memos. – p.4, Lesson’s From Israel’s Intelligence Reforms

911テロの際、情報を得ながらテロを事前に察知で出来なかったアメリカの諜報機関の手法に対する評価を、第四次中東戦争の失敗から諜報手段を改善したイスラエル参謀本部諜報局(AMAN)の事例を紹介した2007年発表の論文。内容がばっちり整合しているので、映画の脚本はこの論文をチェックしたのかな、と思う。

集団思考を封じ込めるシステムを

「そんなことあるはずがない」「これで問題ないはずだ」といった安心した緩い雰囲気が蔓延した中で、別の論を唱えるのは難しい。集団思考は、合理的な推測/仮説立案を妨げ、組織を危機にさらす可能性がある。

ユダヤ人の間に、そのものズバリの「10番目の男」という教えはないようだ。しかし、集団思考を疑うだけでなく、集団思考を封じ込めるルール/システムが必要だと覚えておこう。

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