ローランドの MBO 提案で思う

BIZMUSIC

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先週、ローランドの現経営者による MBO( Management Buy Out:経営陣による買収)提案に、創業者が反対しているというニュースが流れました。創業者はあのカリスマの梯郁太郎さんです(Wikipedia)。梯さんは昨年にローランドの経営から身を引いています。

各所に流れているニュースを総合すると、創業者の梯さんが反対している点は、MBO の買収資金がファンドによるものであること、ローランド芸術文化振興財団が保有する株式の売却が求められていること(思い入れのある財団をなぜ手放さなければならないのか)。梯さんが理事長である財団は筆頭株主。MBO は財団が反対しても成立する見込みである一方で、一般的に筆頭株主が TOB に応じない事実は経営方針のコンセンサスが得られていないともとれるので、波紋を呼んでる訳です。

さて、なぜ経営陣は上場しているローランドを買収して非上場化したいと思っているのでしょうか。

通常、上場している企業の経営陣は「このままではダメです」なんてことは言いません。嘘をついている訳ではなく、発言により企業の価値を損ねることはしないものですし、ダメだと思っているなら経営者の資格なし、退場せよ、ということなので、市場環境が厳しいとは言っても、自社の弱音は吐かないもんです。

しかし、MBO となると話は別。このままではダメになるから MBO するんだ、と表明する必要があり、ダメになる理由と、その問題への対処法を説明しなくてはなりません。珍しい企業のホンネが聞ける機会でもある訳で、読んでみましょう。MBOの実施及び応募推奨に関するお知らせ[5月21日修正版]がそれです。

  • 平成 20 年のリーマンショック以降、景気の低迷、急速かつ長期の円高などによって、当社の事業の経営環境が大きく変化し、業績も大きな影響を受けている
  • 特に当社のコア事業である電子楽器事業においては、長引くデフレや円高による 安価な海外生産品の増加を背景に製品の低価格化による価格競争が進み、当社が得意としていた 高品質の高価格製品の販売が低迷した
  • 当社が開発し圧倒的なシェアを持つ製品についても、デザイン・機能がユーザーの嗜好の変化について行けず、近年は、次第にシェアを落としている
  • 需要の見込める市場に対して必ずしも製品投入ができておらず、競合他社に市場シェアを奪われている
  • コア事業である電子楽器事業の業績低迷が長期化し、電子楽器事業の市場価値が低下している
  • 昨年度の業績上方修正は為替要因、差し引くと目標未達

という状況です。近年、何となく元気がないローランドに感じている空気感がよく表れている内容です。さて、それに対しての対策は…

  • Low-Cost Operation:現在やっているコスト削減と在庫調整の推進
  • Glocalization:現在やっている地域特色への対応強化とネットを通じたユーザコミュニケーション強化
  • Innovation:カスタムLSIで価値を確保し、市場規模の大きいピアノ、ドラム、ギター市場の製品、ダンスやボーカル、業務用音響・映像機器等、楽器分野の深耕りを行なう
  • 長期的には、既存市場にとらわれない独自技術の用途展開
  • ノンコア事業であるローランドディージー株式会社の売却
  • 戦略的投資及び機動的な経営判断による経営スピードの向上

といったところです。一般的には非上場化すれば市場の圧力はなくなるので中期的な経営を安定的に出来るメリットがあるものの、今回のケースでは資金背景がファンドによるものであることから、果たしてどう変わるのかな、という感じもします。

別にローランドの MBO がどうこう、ということではなく、ハードウェア中心の音楽楽器事業者って、おそらくは同じ悩みを抱えているんだろうな、と思います。音楽制作ソフトウェアも単価が下落傾向にありますし、PC のライフサイクルも長くなっていることから収入機会が激減していると思います。ハードウェア事業会社も、もっと小さい資本でクラウドファンディング的な経営をやっているところや、ブランド力をあげて製品価格を非常に高くするところが生き残っています。

ヤマハ、コルグ、ローランドは音楽業界では大企業型の運営をしています。弱くなった企業の M&A で規模を追求しても続かないような気がします。個人的には、もっとみんなが楽器を買いまくればいい、なんて思ったりしますが、やはりプレーヤー(事業会社)が増え、グローバル化している現代ですので、キラリと光る製品を出していくのが大道なのかな、とも思います。

ともかく頑張って欲しいです。応援してます。そういえばローランドの機材は XV-5050 くらいだな。808 の音にはあんなにお世話になっているのに。次に買うハードウェアは Native Instruments Maschine だ。すんません。

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波形研究所 所長

WAVEFORM LAB(ウェーブフォーム・ラボ) は音楽制作、デジタルライフ、イノベーションをテーマとするサイトです。

1997年、伝説の PDA、Apple Newton にフォーカスした Newton@-AtMark- を開設、Newton や Steve Jobs が復帰した激動期の Apple Computer のニュースを伝えるサイトとして 200万アクセスを達成。2001年からサイトをブログ化、2019年よりサイト名を WAVEFORM LAB に改称、気になるネタ&ちょっとつっこんだ解説をモットーにサイトを提供しています。

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コメント

  1. 波形研究所 所長 takefumi より:

    東洋経済オンラインに梯郁太郎氏のインタビューが掲載されています。
    ローランド創業者はなぜMBOに反対なのか – 楽器業界の”レジェンド”が胸の内を明かした
    http://toyokeizai.net/articles/-/39069

  2. 波形研究所 所長 takefumi より:

    タイトル変えました。まだ MBO 起案段階なので。

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