本当に悲しい。憧れたキーボーディストはみな逝ってしまった。とにかく悲しい。
Chick Corea が亡くなった。2月9日にがんで亡くなったそうだ。79歳だった(Chick Corea オフィシャルサイト)。遂にというか、憧れのキーボーディストヒーローはみな逝ってしまった。悲しくてならない。
Chick Corea ・ジャズとの出会い
小学生時代にまぁまぁピアノを習い、中学時代に吹奏楽でトランペットに打ち込む一方、洋楽のロックを本格的に聴き始め、マイケル・シェンカーやイングェイ(当時アルカトラス)が好きになり、高校に行ったらバンドをやるんだと心に誓った。高校入学と同時にバンドをはじめたが、自分が担当するのはキーボード。高校時代はヘヴイメタルに傾倒していたのだが、このジャンルではキーボードの出番などない。
キーボーディストが在籍するバンドとして VOW WOW を演ったり、KORG RK-100 でジョージリンチのギターパートをプレイしても所詮キーボードはメインではない。ハイテクかつキーボードがメインのバンドということで、気がついたらテクノ・フュージョン、そしてプログレを演奏するバンドとなっていた。曲はほぼインスト。ライブで後輩からは「いつ歌が入るんですか?」なんて状態だった。
高度なテクニックで変拍子上等の難波弘之&セブンス・オブ・ワンダーや Emerson Lake & Palmer が好きで、バンドでは難波弘之の10分に及びプログレ曲「迷える方舟」を弾いて客に引かれたり、 Emerson Lake & Powell のアルバムのコピーなどを頑張って演っていた。そして、心からはじめて「かっこいいぜ!」と思えるキーボディスト、Keith Emerson に夢中だった。
キーボーディストはキーボードマガジンを読む。そこで特集されていたのがチックコリア・エレクトリックバンド。音楽は分からないがジャズミュージシャンが YAMAHA KX-5 で演奏している写真が載っている。ちょうどその頃、FM ラジオでチックコリア・エレクトリックバンドのライブがオンエアされた。これが凄かった。
エレクトリックバンドはちょうど新作アルバム Eye of the Beholder がリリースされた直後。ライブでは Rumble や Got A Match? などバカテク最強のシンセソロが満載。シンセとジャズバンドが高度に融合された音楽を演っており、ジャズなんだけど全然古臭くない。
もう速攻でレコード屋に行ってアルバム Eye of the Beholderを 買ってきた。1988年の話だ。Eye of the Biholder にあのバカテクソングは入っていなかったが、出だしの Home Universe – Eternal Child の音楽性の高さにやられてしまった。
「ヤバい、とんでもない人を見つけた」
「ジャズってこうゆう音楽なのか」
「この音楽ならキーボードがメインをはれる、スゲー!」
これまでなんとなく敬遠していたジャズを本格的に聴くようになった。そして大学に行ったらジャズを演るんだ、と思った。
Chick Corea のプレイ・そして音楽
大学に入学し、当時はサブスクなんてないから Chick Corea の音楽を制覇すべく、とにかくバイトして稼いだお金を注ぎ込んだ。Chick Corea、Herbie Hancock などエレクトリックジャズを演っていたアーティストをとにかく聴きまくった。
Chick Corea はエレクトリックバンドのアルバム、そしてリターン・トゥ・フォーエヴァーとフュージョン全盛期の音楽がたまらなかった。ジャズ・フュージョンの世界ではアーティストは1つのバンドに所属するのではなく、色んな人とコラボレーション・セッションすることが多いことが分かり、Mac の FileMaker Pro でアルバム・演奏者をデータベース化するようになった。
ソロプレイが自由なジャズのフォーマットは楽しく刺激的で、バンドもいろんな人と演奏するセッションを楽しむようになった(自分の大学にはそういう人は少なかったので、自然に他の大学のジャズ研に流れていくようになった。今考えれば「誰だこいつ??」というようなやつだったんだろう)。
キーボードプレーヤー(本当は各プレーヤー全員)が輝く音楽に出会ったことがとにかく嬉しかった。そして、個人的には、ジャズが生まれてはじめて「聴いてもなんか音が取れない(採譜できない)音楽」だった。そこでは全く異なる音楽的言語が使われていた。
楽譜は片っ端から集めた(だって音とれないんだもん)。日本では売っていない楽譜は海外に旅行した際にこつこつ買って集めた。Chick の楽譜は自分で音とりしたものを含め、かなり持っている方だ。
エレクトリックなジャズは聴くけど、本格的なスリーピースのジャズユニットはさすがに敬遠していた。すると Eye of the Beholder リリースの翌年に Chick Corea Akoustic Band (1989年) が発表される。今思えば当時若手だったジョン・パティトゥッチとデイブ・ウェックルの三人によるプレイは非常にモダン、いや近代的・最新鋭のジャズだった。ジャズ特有のクラシック感が全くなかった。なんかチックのプレイは他のミュージシャンと基本的に異なるな、と思い始めた。
ジャズのキーボーディストとしては Herbie Hancock も好きだけど、ハービーはなんかプレイが感覚的・抽象的・勢い的という感じがしていた。もちろん、バラードとか弾くとコードが素晴らしかったりするんだけど、それはハービーが弾くとそうなるのであって、プレイを分析・分解するのを拒否しているというか、全体として受け入れる必要がある印象だった。次のビデオではハービーのピアニストとしてのヤバさが光るんだが。
Chick Corea はもう少し論理的というか、フレーズや音の使い方に意味があるように思えた。特にピアノの演奏については音運びやボイシングが研ぎ澄まされていた。「RTF でローズをがちゃがちゃやってた人がなんでこうなるんだろう」と思ったものだ。
当時、Chick Corea の音楽教則ビデオというのがVHSで販売されていてね。Chick Corea / Electric Workshop とあとなんだっけかな。両方とも YouTube にある。10本の指をドラマーに例えてプレイする 10 Drumers プレイとか圧巻なんだけど、ジャズでも最初はゆっくり音の響きを確かめながら練習するとか紹介されていて、バンドメンバーへの音楽の展開とかもとても面白かった)ちなみにビデオに出てくる若手ドラマー Gary Novak は Pain the World でエレクトリックバンドのメンバーになっている)。
Chick のプレイはワイドでオープン。スケールは2オクターブ展開くらいが基本、そして音選びは内向的というより Inside Out(アルバムタイトルにもなっている)だ。単音がしっかりと響いて、曖昧で適当なプレイが一切ない。4ビートをやっていても奇数カウントをしているようなユーモアさ、アクロバットな展開が持ち味だ。彼のプレイの「面白さ」に魅了された。
エレクトリック時代の名曲、King Cockroach(なんていうタイトルだ)のオープンでのびやかなシンセソロ(4:43あたりから)を紹介しておく。当時レーザーディスクで販売されていたライブ映像だ。Rhodes STAGE 73 Mark V + YAMAHA KX88 構成が理想的でいい。シンセソロもピアノ鍵盤で弾いていんだ、と気づきがあった。最後の展開はもうプログレだ。
最後に好きなアルバムや楽曲を紹介しようと思ったが、これが実に多すぎて断念した。彼はアウトプットが多かったからというのもあるけど、やはり人それぞれ自分の音楽の幅を広げるきっかけになったアルバムは違うんだろうとも思う。Chick Corea のライブは Return to Foever を含めてかなり行った方だと思う。でも、最後にもう1回行きたかった。
サブスクのライブラリーをチェックしたが Chick Corea は案外旧作が収録されていない。旧作はほとんど持ってるけど、この週末に久しぶりに Tower Records でも行って聴いていないアルバムを買い込もうと思う。まだ前向きにはなれないけど、とにかく彼の曲を聴いていたい。
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