Chick Corea Elektric Band の思い出

MUSICTALK

Chick Corea 2015

Chick Corea が亡くなって1年が過ぎた。昨年はあまりに悲しくて、2月は追悼のエントリー 1つしか書くことができなかった。自分にとって、Chick Corea はピアニスト・キーボーディストの絶対的ヒーローであり、小難しいジャズを分かりやすくガイドしてくれたレジェンドでもあった。歴史として学んだ多くのジャズ界のレジェンドと異なり、リアルタイムでムーブメントを目撃・経験できたアーティストであった。

個人的で感傷じみた話になるが、同年代の人には「そうそう、そんな感じ」と楽しんで欲しいし、Chick Corea を知らない人には、チック・コリア入門、特に 80年代後半の彼の音楽ガイドになればと思う。

プログレ青年、Chick Corea を知る

小学生でワールドミュージック、ジルベールベコーのファンになり、中学でロック・テクノに出会い、高校ではヘヴィメタルとプログレに夢中になった。時代はロック・ポップの洋楽全盛期であり、個人的志向がどうのこうのというより、いわゆるそういう時代で育ったんだろう。

ハードロックが起点だったから、当然のようにスピード&テクニックに惹かれるようになる。ハードロック、とりわけヘヴィ・メタルにおけるキーボーディストの役割は所詮添え物であり、バンドの中核ではなかった。なので、キーボーディストが中心となり得るプログレを聴くようになった。そこで Keith Emerson を知る。そのテクニックの超絶ぶりに、ほとんどコピーはできなかったが、高校時代はとにかく聴いた。

残念ながら Emerson, Lake & Palmer が活動していたのは 1970年代であり、そういう意味では「古典探求」であった。高校時代に Emerson, Lake & Powell として復活したが、あれはあれでゴージャスなシンセサイザーシンフォニックであり(難波弘之のシンフォビートとは違う)、また超絶感も薄かった。

一方でシャカタクとかも聴いていたから、「大学行ったらジャズをやるんだろうなぁ」なんてぼんやり考えていた。でも、オスカー・ピーターソンはサウンドが古臭くてどうにも聴く気になれなかったし、ビル・エヴァンスはコードが難しく何を弾いているのか分解できないし、プレイが内向的てストレスがたまる。プログレ信仰者の高校生にはジャズは遠い存在だった。

そんな時に、Chick Corea Elektric BandEye of the Beholder(1988) が発売され、FM でライブが放送されることになった。当時、FM STATION というエアチェック系の雑誌を欠かさず買っていたので、それで見つけたんだと思う。1988年の中野サンプラザの来日ライブを聴くことになった。

これが 衝撃 だった

1988年 中野サンプラザのライブ

Chick Corea Elektric Band の 1988年の来日ライブ、場所は中野サンプラザ。Chick Corea Elektric Band のバカテクぶり、そしてジャズとロック、アコースティックとエレクトリックの「フュージョン」が究極にも極まったライブだ(そう、究極に極まっていたんだ)。

その番組では、ライブは City Gate でスタートする。ドラムがシンセやサンプルパッドを叩いているのが分かる。ピアノがメロディをスタートさせる。サックスとエレクトリックギターが絡む。そしてキメ。その後、怒涛のごとく Rumble に流れ込む。

こ、これは、なんなんだ!!!

Rumble はまぁ、特にハイテクな曲なんだけど、とにかく度肝を抜かれた。キーボードマガジンの記事でみかけた Chick Corea が YAMAHA KX5 を演奏しているイメージがありありと浮かんだ。リモートキーボードを弾いている人自体が少ないのだが、実際にソロをとっているアーティストはほとんどいなかった。Rumble では、ロングアプローチがしやすいミニ鍵盤・ベンドコントローラーなど YAMAHA KX5 の性能がいかんなく発揮されていた。

だいたい拍子の頭も小節の頭も分からない。冒頭のドラムのフィルパターンは拍子の頭は分からないし、ベースはシーケンスパターンのようなものを延々と力強く弾いている、全然ブレない。シンセは変幻自在にソロを弾いている。ギターはリフを、あー弾いていない。自由に弾いているのではない。シーケンサーが鳴ってる構成はあらかじめ決まっているはずだ。なぜバンドメンバーはこんな曲を迷わず演奏できて、要所要所のキメまできっちり合わせてプレイできるんだ。そして怒涛のエンディング。

おい、これはジャズなのか?

とにかくショックだった。このライブでは AmnesiaGot a Match? も演奏していてこれも超絶で、まぁ、本当にショックだったんだ。

また音源がクリアだった。EL&P の古典音質ではなく、ライブ盤にありがちなふらついた演奏でもなく、アルバムを CD で聴くようにクリアだった。つい先日、この完璧な演奏をライブでプレイしたんだろう。「ジャズってこんなことになってるの?」と、あわててアルバムを買いに行った。

このライブ音源は YouTube にある。Chick Corea のライブ音源の中でも最高のものだと思う。ぜひ聴いてみて欲しい。

Eye of the Beholder(1988)

Eye of the Beholder(1988)

Eye of the Beholder の CD を買ってくる。ジャケットはなんかイマイチ。やはりロックとは違う趣だ。プレイボタンを押す。アルバムは Home Universe – Eternal Child のメドレー。静かなイントロがはじまる。

切なかった(号泣)

Home Universe。遠くからパーカッションパターンが聴こえてくる。壮大なストリングスが続くがコードが凄い。コードの動きが凄い。これから何か大きなことが起こると想像させてくれる。でもどことなく悲しい。

Eternal Child。そしてピアノが入る。なんて美しくて切ないメロディ。これ以上は削れないくらいの音数でしっかり伝える。少しピアノで解釈を広げる。メロディはギター、そしてサックスへと受け継がれる。そしてエンディング。ドラムの終わり方もいい。

楽譜を探す。ない。

Eye of the Beholder の楽譜は後に手に入れるんだけど海外版。当時、インターネットは一般には普及していなかったから、海外書籍目録から楽譜を見つけて個別に発注・輸入する、なんて難しかったんだ。

収録曲はどれも秀逸。エレクトリック・バンドの前作2作品と比較すると、サウンドもエレクトリック一本槍ではなく、アコースティックとも融合した新しいジャズの在り方を提示している。

個人的には Cascade – Part II のイントロのコードがとっても好きだ。コードというかボイシングというか。コードが動くたびに心の響きが変わっていく。素晴らしいイントロだと思う。ビル・エヴァンスの My Foolosh Heart の出だしみたいだね。

ライブで演奏した楽曲はライブ版の方が全然良かったが、Chick Corea を通して音楽の視野がいっきに広がる感じでワクワクした。

Chick Corea Elektric Band

Chick Corea Elektric Band

大学でいろんな学校のジャズ研に出入りするようになると音楽の視野が一気に広がる。「チックコリアが好きだ」「嫌いだ」とか、いろいろなんだが、Chick Corea Elektric Band が好きな鍵盤弾きはある一定数いて、彼らは「シルバーテンプルがヤバい」とか「キングコックローチだ」なんて言っている。 Google とかないから必死に覚える。銀閣寺?殺虫剤か?なんて思いながら必死にタワーレコードでアルバムを探す。YouTube ないんだもん。

アルバム Chick Corea Elektric Band(1986)で聴いてみると「確かにね」という感じだが、あんなに興奮するものか?とも思う。たぶんライブで弾くと凄いんだろう、と推測するがライブアルバムは出ていない。いや、ある。あった。

Elektric City

レーザーディスクで Elektric City というマドリッドでのライブや PV をまとめた作品が出ていて、収録曲をチェックすると King Cockroach が入っている。バイトして買う。実家からレーザーディスクプレーヤーをかっぱらってくる。観た。動いているチックコリアをはじめて観た。

ヤ・バ・イ ♥

King Cockroach はとにかくかっこよかった。SidewalkRumbleGot a Match も実際に演奏しているのをはじめて目撃した。

何か月もバイトして買った YAMAHA KX88 を Fender Rhodes の上に置いてソロをとってる。ピアノ鍵盤であれを弾いてるのか。両手使って弾いてる(10 drummers 奏法)。マジかっこいい。とにかくかこいい。

ちなみにレーザーディスクの音源を Mini Disc に落としてずいぶんと聴いた。今の iPhone にも入ってる。映像作品はいろいろ買ったけど、これが一番いい。好きだ。

Chick Corea Akoustic Band(1989)

Chick Corea Akoustic Band

ジャズ入門者としてはジャズを弾きたい。けど、エヴァンズとかじゃない。キース・ジャレットでもない。Elektric Band の興奮冷めやらぬ 1989年に Chick Corea Akoustic Band 名義でアルバムが発表される。エレクトリックバンドのドラム・ベースとのトリオだ。

これもとにかくモダンだった。「ジャズの扉がこのアルバムで開けた」という人は多かったのではないだろうか。後に渋谷のオーチャードホールでこの3人の演奏を最前列で聴くのだが、品のよい観衆を後ろに、ステージにでてきたチックに駆けよって1人、足をつかもうとしたのは俺だ(笑)。ははは、驚いてたよ。

このアルバムでは T.B.C.(Terminal Baggege Claim) という曲が好きだ。いつか生で演奏してみたい。

Fender Rhodes を弾く

Fender Rhodes Mark V Stage 73

Chick Corea の演奏を通じて Fender Rhodes にも出会った。もともと横浜ビブレの地下層にあったヤマハには、Fender Rhodes Mark V が置いてあった。最初に弾いた時は「何?これ、ピアノの音が出ないじゃん」なんて思ってたんだけど、チックの演奏を聴いて、あぁ、こういう楽器なのかと理解した( Chick Corea の Mark V は YAMAHA のシンセサイザー向けにサンプルが無料で公開されている)。

Elektric City の映像を観ていてもかっこいい。Rhodes が欲しい。けどたぶん相当に高い楽器なんだろう。デカいし。

ある日、とんでもなくリアルな Rhodes の音を出す音源を見つけた。Ensoniq MR-Rack だ。プリセットの Rhodes が本物のようだった。MR-Rack が自分のトレードマークの楽器となった(チック好きの鍵盤弾きはみんな持ってたけど)。

我が家の MR-Rack

我が家の MR-Rack

そしてあるバンドに誘われて(人生でも長く在籍するバンド)、そのバンドが使っている渋谷の練習スタジオに Rhodes Mark II があった。そのバンドは毎週金曜日にオールナイトで練習をしていたから、そこで Rhodes を思う存分に弾くことができた。大学を卒業してもしばらくそのような習慣を続けていたんだけど、今考えると毎週、Rhodes を弾けるのは幸せだったと思う。

電子楽器のシンセサイザーとは異なり、電気楽器の Rhodes は弱いタッチでコードを弾いた時と、強いパッセージでソロをとった時で全く違った楽器になった。サックスやエレクトリックギターに負けない「ガツンとしたソロ」を弾くことができた。

Fender Rhodes やエレクトリック機材をジャズに持ち込んだのは、Chick Corea と Herbie Hancock の功績だが、ジャズだけでない。全世界の多くの鍵盤弾きに電子楽器の楽しさを伝道し、ジャズ・ミュージックに引き摺り込んだ。すごいことだと思う。

J-WAVE & GRP

GRP & J-WAVE PRESENTS PAZZ and JOPS 1st ANNIVERSARY

Chick Corea のアルバムは GRP というレーベルから出ていた。Dave Grusin、Larry Rosen が作ったレーベルだ。綺麗目のジャズ作品を多くリリースしていた(リトナーやマーカスも GRP 経由で知った)。時を同じく、J-WAVE というラジオ局が開局した。J-WAVE は六本木のレコード店 WAVE が絡んでいて、そんなこともあってオシャレな音楽をかけまくってたんだけど、GRP は日本で J-WAVE のサウンド面で協力していて、ジングルや BGM を提供していた。

長く使われてきた Weather Informaion の BGM も Chick Corea が提供したものだ。 J-WAVE のコンピレーションアルバム、GRP & J-WAVE PRESENTS PAZZ and JOPS 1st ANNIVERSARY のド頭に収録されている。あれ、4分くらいあるんだよ。ファンはチェックすべし。

YAMAHA SY99(1991)

YAMAHA SY99

渋谷道玄坂のヤマハに行ったら、SY77 より広い音域、76鍵盤の新製品 YAMAHA SY99 が置いてあった。「はーん、上位機種が出たんだぁ」なんて思って眺めてたら、「 Hi, This is Chick Corea, and this is the YAMAHA S-Y-99 」と声がする。そして間髪入れずデモソングが流れだす。Chick Corea の楽曲、後にアルバム Beneath the Mask(1991)に収録される 99 Flavors だ。ピアノソロからはじまるフルバンド楽曲で凄かった。値段も凄かった記憶があるが、調べるに定価は 42万円だったそうだ。

今年はここらへんで

長くなったので今年はここらへんで。あまりに存在が大きくて総括もできないし。来年は 後期の Elektric Band や来日ライブの話、いや強力な布陣で攻撃的なユニット RTF について話そうかな。

このエントリーを書きながら過去を振り返ると、自分をとりまく楽器の多くは Chick Corea の影響があったんだなぁ、と気付く。ENSONIQ MR-Rack の電源は10年くらい入れてないが、手放してはいない。YAMAHA KX5 / KX88 はいまだに現役。SY99 は買えなかったが、TG77 は手に入れた。某ヤマキ氏から譲り受けた AKAI CD3000XL もほとんど Rhodes サンプルプレーヤーだった。コンピューターも Mac を選択した。影響どころか、マンマじゃん、というレベルか(笑)。

2月に入って、前述の中野サンプラザのライブや Elektric City をよく聴いている。ご機嫌だ。Chick Corea は多作でたくさんの作品を残していて、最近のものとか、ほとんど聴けていないんだと思う。まだまだ知らない音源があるということは、まだまだ彼の音楽を探求できるわけで、残された一人のファンとして大きな慰みとなっている。

チック・コリア、まだまだ聴くよ!

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波形研究所 所長

WAVEFORM LAB(ウェーブフォーム・ラボ) は音楽制作、デジタルライフ、イノベーションをテーマとするサイトです。

1997年、伝説の PDA、Apple Newton にフォーカスした Newton@-AtMark- を開設、Newton や Steve Jobs が復帰した激動期の Apple Computer のニュースを伝えるサイトとして 200万アクセスを達成。2001年からサイトをブログ化、2019年よりサイト名を WAVEFORM LAB に改称、気になるネタ&ちょっとつっこんだ解説をモットーにサイトを提供しています。

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