日経の文化面が素晴らしい

投稿日: カテゴリー: BOOK, TALK
日経の文化面

仕事柄、日本経済新聞社さんとは微妙な立ち位置にいるので、新聞社がどうこう、という話は努めて書かなかったのだが、「好きだ!」と一方的に表明するのは問題なかろう、と思ったりする。

自分の家で購読している新聞は日本経済新聞だ。その前はずっと朝日新聞だったが、新聞社とはあまり関係ない、販売所の担当が嫌になり日経に変えた。業務上、親しみがあるので新聞を読むのが好きだ。地方に行った時は、その土地の地方紙を読むのが楽しみだったりする(地方紙大手が拮抗していたら両方読む)。ビジネスといえば日経、ということで、日経を読むようになったのは中小企業診断士の受験がきっかけ。朝刊のみ+折り込みチラシという契約で購読している。

で、この日本経済新聞。内容が内容なので特に感情もなく淡々と記事を消費できるのだが、感情を大きく揺さぶられる面がある。一番最後の文化面だ。

「私の履歴書」が素晴らしいのは周知の事実だが、これは世に影響を与えたキーパーソンが自らの半生を語るからであって、日経記者の力に依るところではない。知らなかった経営者の挑戦の日々を読むのも興味深いし、感心するものあり笑いが止まらないものもある。12年末の森元首相の連載は笑いが止まらなかった(この時ばかりは代筆する日経記者の茶目っ気が透けて見えるようだった)。

さて、文化面である。ここからは完全に妄想なんだが、日経に入社して文化面に配属になったら、それなりに凹むんじゃないだろうか。日本の政界・経済を動静を自らの視点で記事にしたり、企業の最新戦略を他社に先駆けて記事にしたり、という「日経王道」の部門ではなく、文化面、である。日経が文化面に強い、という評判も正直、聞いたことがない。「あぁ、文化面担当かよ」と。

(妄想が続きます)そこで文化面の記者はテキトーに取材し、記事を書く訳である。しかし、これがなかなか面白い。芸術や伝統芸能の啓蒙なんて、朝日新聞や読売新聞あたりに任せてしまえばいい。文化振興なんてプレッシャーは微塵もない。そんな肩の力が抜けた状態で取材するネタが、例えば、「エクストリームアイロニング:熱いぜ山頂のスチーム ◇極限状態で衣服にアイロンを掛ける競技の魅力◇ 松澤等」。

「山岳登頂し、その場でシャツにアイロンをかける英国生まれのスポーツ。松澤氏は語る。厳しい環境下でアイロン、という組み合わせをバカバカしい冗談と思われることも少なくない。『なぜ?』と問われると僕はこう答える。『そこにしわがあるから』」

この記事が「日経の文化面ってめちゃくちゃ面白くないか?」と思い始めたキッカケだった。つい最近も、「◇データベース生かし愛好家・プロ棋士と広く交流◇荒川貴道」(ラーメン屋の雑誌の詰将棋をメモして以来、将棋もうまくないのだが詰将棋の棋譜を集めに集めてデータベース化したシステムエンジニアのおじさんが活動を通じてプロ棋士達とも交流し、全日本詰将棋連盟の幹事にのぼりつめるシンデレラストーリー)、なんて素敵だった。ちょっとあげてみる。

  • 「歌の名場面、寄り添い50年――フジテレビジョン・エグゼクティブプロデューサー石田弘氏」(とんねるずでお馴染みのダーイシこと、石田氏の記事)
  • 「北朝鮮民衆の日常を調査――東京大学名誉教授伊藤亜人氏」
  • 「ヴァイマルの残照――作家西木正明氏」
  • 「書物彩り、創意工夫――元岩波書店専務坂口顯氏」(岩波書店で装丁担い半世紀、300作品)
  • 「ロック「最遅」ひのき舞台――ロック歌手増子直純氏」(バンド「怒髪天」30年、低空飛行を経て武道館公演へ)
  • 「生誕110年没後50年、小津映画なお再発見――山荘日記・絵コンテ…、制作過程に迫る」
  • 「わが暇、孤独、断捨離――放送大教授、東大名誉教授宮下志朗氏」
  • 「ビートルズの秘書は私――元ビートルズ秘書フリーダ・ケリー氏」
  • 「公家儀式「包丁式」を継承――四條司家第41代当主四條隆彦氏」(ロックバンド活動やめ後継の道へ、陛下の前で披露)
  • 「こけしロシア旅する――写真家・詩人沼田元氣氏」(マトリョーシカとコラボ、新たな作品を創作)
  • 「四足走行、人の可能性試す――四足走行世界記録保持者いとうけんいち氏」(二足より速い?10年の実感、毎年タイムを短縮)
  • 「四万十トンボ王国の番人――トンボ研究家杉村光俊氏」
  • 「今年も銀座にツバメが――都市鳥研究会幹事金子凱彦氏」(飛来や巣立ち調べ30年、毎年姿を初めて見た日は祝杯)
  • 「競馬オッズ板歴史探訪――翻訳・著述家田中健彦氏」(スタートは100年前の豪州、複雑巧妙な機械式)

思いつき&行き当たりばったり、に見えるが、データベースでタイトルを並べてみると、記者の取材力や企画・構成力が並々ならぬものだと分かる。企業面担当から異動になってモチベーションが下がりまくりの記者が、文化面の取材を通じて、小さくも人生を賭けた人々の情熱の御技に心打たれるのである。「あぁ、俺はこれを伝えなければ!」。記者魂が震える瞬間である。(妄想ここまで)

日経の文化面に共通するのは、普通の人が自らの目線で長く継続したことで文化となったという「文化のボトムアップ・一億文化人思想」、老い・障害など、「弱者(という表現は危険だが)やマイノリティ視点の積極的な紹介」、伝統芸能承継人や作家・画家・音楽家などの「狭くて深い文化論チラリズム」、であろうか。

記者の人生観の質、とてつもなく幅広い視野と知見、大衆の目線、強さと弱さ、そしての愛と情熱を高いレベルで求められる、それが日経の文化面なのではないか、と勝手に確信している。

歌舞伎俳優坂東三津五郎さんも「日経は文化面から読む」と言っている。日経で最も花形なのは文化面担当だ。間違いない。しばらくは文化面のために日経をとり続けようと思う。




日経の文化面が素晴らしい」への2件のフィードバック

  1. まったく同感です。私も文化面から読みます。日経は経済紙という見方が一般的ですが、文化面は、子供たちへの教育という視点からも意味があると思っています。学校の先生が世の中には、こう言う生き方をしている方がおられるという事を文化面を通じて子供たちに紹介したら、子供たちにとって将来の職業だけでなく、その生き方に対するの視野も大きく広がるようになるのではないかと(妄想)しています。
    すでに全国の学校の先生の中には「私は日経の文化欄を朝のホームルームの時によく紹介しています。」なんと言う先生もあられるような気がします。

    1. 全国紙はやはり社会面がしっかりしているので、たまに読むとやはり全国紙はいいなと思うのですが、全国紙も経済紙の両方をとるのは難しい。日経が文化面をちゃんと書いてくれているので日経の購読を続けているようなところもあります。面であったり、文化面やコラムは新聞紙が単なるニュースサイトではないポイントの部分と思います。

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