絶対音感に関する考察 -絶対音感を獲得する訓練と絶対音感のメリット・デメリット

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Emerson Lake & Powell - THE SCORE のファンファーレ

レビであるピアニストが絶対音感で、様々な音が音階で聞こえてストレスになる、って話してた。

自分もその部類で、コップのぶつかる音や新幹線のハム音(5度だ)やレーシングカーやエレベーターの稼動音(連続的に音が変換して音階にしにくい)とか気になって仕方がなかった。あと12音階に分解できない中間ピッチ(京急の発進時のあのモーター音の最後の部分とかね)。

が、年齢を重ねると、そんなに気にならなくなり、かつ音感も悪くなった。ということは、絶対音感の感度は先天性的なものでなくて、鍛錬でどうにか取得できるはずである。そんなことで絶対音感に関する考察。

絶対音感を獲得するための訓練

絶対音感の定義からはじめる。この考察で絶対音感は下記要素に限定する。

  • 自分で正確なピッチを発音・再現できる
  • ピッチのずれを指摘し補正できる
  • ある短音を聴き取り、ピッチを音階で表現できる
  • 和音の構成要素を正確に解析できる

正しいピッチ感覚をつかむ

まず、絶対音感のスタート地点は「正しいピッチを自分の中に持っている」ことだと思う。相対的な音階差は誰もがまぁまぁの感覚を持っている(だからカラオケで歌うことができる)。これに対し、絶対音感は自分の中に絶対的なピッチ感覚を持っている。

この「正しいピッチを自分の中に持つ」という力を育成するには、正しいピッチを毎日、多く聴くことだと思う。個人的にはトイピアノの狂った音程が我慢ならない。ドはドであり、それ以外のピッチでドを表現して欲しくない。正しいピッチを多くの時間聴くことで、自分の中に正しいピッチ感覚が根付くのではないだろうか。

歳をとって、正しいピッチを聴く鍛錬をつまなくなると音感が劣化するなら、訓練で向上できるということだ。もちろん、幼児期にコールユーブンゲンで合唱練習したのが絶対音感の獲得に一番貢献したと思うが、絶対音楽は歳をとっても獲得できる能力だと思う(それが音楽的に正しい道なのかは後で述べる)。

聴こえる音を正しい階名で把握する

次に必要なのは「正しい階名で音を把握する力」だ。ピッチ感覚はあっても、聴こえる音を階名で言えなければ、後の和音分解などできない。この能力の醸成方法はメロディを階名で歌うことだ。発声ができるようになったら、耳にする音楽のメロディをかたっぱしから絶対階名で表現する。要は聴こえる音をドレミに変換せよ、ということだ。

これが出来るようになれば、各ピッチと階名が「対」になる。正しい階名で把握できているかは、絶対ピッチを再生する楽器(ピアノ、木琴など。ギターや金管・木管楽器など技能によって不安定なピッチを出す楽器は除く)で確認すること。ハンディチューナーを使ってもよい。間違った階名表現は絶対音感への道を遠ざける。

聴きやすい音域からはじめるとよい。個人的には高音は精度が高く、低音になるほどうやむやになる感じ。自分で再現できるピッチ幅があるようだね。

またコツとしてシャープやフラットが付くと階名が言いにくいよね。これは「ぶらさがったド(フラット)」「上ずったド(シャープ)」とか感覚的に持っておけばいい。ちなみに自分は F# は Gb とも表現できるけど、F# として理解している。12音階は C C# D Eb E F F# G G# A Bb B C で把握している。これは癖だけど。

聴いたメロディを階名で書き出す

ピアノの教育を受けると、演奏練習に加えてコールユーブンゲン(幼児期)や採譜訓練を同時に受けることが多い。採譜は聴くそばから楽譜を書いていく作業のこと。ポイントは、音はどんどん流れていってしまうので「リアルタイムで採譜する」ことと、「スケールからはずれた音を集中的に訓練する」ことだ。

リアルタイムというのは、頭で解釈せず、反射的に採譜ができるということ。初期練習ではリズムは一定(四分音符や八分音符のみ)の方がやりやすい。リズム(音長)を入れると採譜が大変になり、採譜能力ばかりが伸びてしまう(それで階名が間違ってたら本末転倒)。

またスケールにない音を積極的にとりあげるといい。スケールにない音とは、基本となるドレミファソラシド、もしくはマイナースケールのドレbミファソbラシドにない音だ。スケールにある音は聴音が簡単。しかし絶対ピッチから階名を当てるのであって、スケールなど関係なく短音を言い当てなければならない。なので、12音を均等に階名になおす訓練が必要だ。ま、スケール音から習得する方法もあるけど、個人的には12種類しかないんだから単音で掴んじゃえ、という感じ。

和音を分解する

最後に和音分解。これは「響きの要素を分離して把握する能力」が必要。鳴っている音を下から順に単音に分解していく感じ。ロックやポップ、クラシックなどは簡単だが、テンションやトライアド(基本3音)が展開して使われるコードボイシングの分解には訓練が必要。ジャズのコード分解が難解なのはこれが理由。まぁ、この域が必要な人はあまりいないと思うけど。

鳴っている音を階名になおすなら、ベース音から把握するのが良い。曲のコード運びが正確になる。絶対音感の訓練に慣れてくるとメロディだと固まりで把握できるようになったり、和音も採譜しやすくなるのだ。

絶対音感が必要なのか・絶対音感のデメリット

絶対音感が音楽をやる人には便利なツールであるとは思うけど、この能力が必要なのかは大いに疑問だったりする。絶対音感というのは音楽演奏技能を学ぶ過程での「」みたいなもので、逆に絶対音感が技能習得のデメリットにもなりえる。例をあげる。

基音が異なる楽器が苦手

例えばトランペットは基音が Bb(Bフラット)だ。Bb を「ド」と呼ぶ(楽譜もそのように書かれている)。これが辛い。Bbを聴いた瞬間に「シ・フラット」と頭の中で鳴る訳だ。楽譜と鳴っている音が1音違うので気持ちが悪いことこの上ない。中学時代にトランペットをはじめて最初は苦労した。

演奏を続ける過程で Bb スケールでの階名表現ができるようになったの(頭の中にモードスイッチが増えたイメージ)。吹奏楽では Bb でピッチを合わせる練習、Bbのロングトーン練習を行う。これが効果あったんだと思う。

転調表現が苦手

音楽理論を学ぶと、音階はピッチによる絶対表現ではなく、基音による相対表現も要求されることになる。楽曲のメロディ(音運び)と調性を分離するという考えで、転調してもドレミは変わらないという技法だ。絶対音感があるとこれが全くダメだ。転調しても頭の中で鳴る階名は全く変わらないので難しい曲の転調は混乱する。ギターなどフォームも同じ楽器の人はメロディを相対なドレミで把握する人が多い。ピアノで転調すると運指も変わる。これは各調でのスケール練習で逃げるしかなく、絶対音感は不利でしかない。

そうそう、カラオケの転調は苦手です。キーを声域に合わせて勝手に変えてくれる人がいるんだけど、あれ、迷惑です(笑)。

素晴らしい演奏家がすべて絶対音感を持っている訳ではないから、「絶対音感があっていいなー」なんて発言を耳にすると、これ本当に必要なのか?とも思う。

まとめ

とはいえ、絶対音感のメリットもある。まず、聴いた曲の再現が容易になる。「聴けば弾ける」ようになる。音楽を聴いたそばからピアノで演奏するのは案外簡単なことだ(技能の問題はあるけど)。また、楽曲の展開を距離で音階で測れるようになるので、展開の推測も容易になる。あと、採譜や音取りも苦じゃなくなる。

絶対音感にはメリットもデメリットもある。また絶対音感の取得は幼児期の教育が全てではない。絶対音感に憧れる人への参考になれば。質問があれば気軽にコメントください。

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波形研究所 所長

WAVEFORM LAB(ウェーブフォーム・ラボ) は音楽制作、デジタルライフ、イノベーションをテーマとするサイトです。

1997年、伝説の PDA、Apple Newton にフォーカスした Newton@-AtMark- を開設、Newton や Steve Jobs が復帰した激動期の Apple Computer のニュースを伝えるサイトとして 200万アクセスを達成。2001年からサイトをブログ化、2019年よりサイト名を WAVEFORM LAB に改称、気になるネタ&ちょっとつっこんだ解説をモットーにサイトを提供しています。

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コメント

  1. 波形研究所 所長 takefumi より:

    転調は相対音感が重要なんだけど、絶対音感のピアノ弾きはズルしちゃうんだよね。音感と運指想像で切り抜けちゃう。これは怠慢なんだろうな。

    ドレミは絶対ビッチ、Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ は相対と使い分けてます。

  2. 波形研究所 所長 takefumi より:

    いろいろ思い出すことがあるんだけど、中学時代にピアノマスターで絶対音感がある女子とトロンボーンで 5度を合わせる練習してた時に、ピアノと違って音が揺れるので、5度って響きがいいよねー、なんて話してた。

    これはシンセのディチューンと同じなんだね。ピアノだと2音の響きが薄いから。

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