『Google』で検索できない『ニューヨーク・タイムズ・コム』の問題点という WIRED の記事。 WIRED にありがちな「言いっぱなし」記事だ。インターネットでのコンテンツ流通に興味がある人は読んで欲しい。
かいつまんで説明するとこうだ。絶大な権威を誇るニューヨークタイムズ紙は過去の記事を有料アーカイブとしているため、 Google ではヒットしない傾向にある。この有料アーカイブからの収益は全体の 2〜3% にすぎない。同社の利益の多くは有料オンラインデータベースである LexisNexis から得ている。 LexisNexis からのロイヤリティは2500万ドルにのぼり、この販売ルートを維持するために過去記事を無料で公開することができずにいる。
ここで Aaron Swart という人物が「古いニュースにではなく、最新のニュースに課金することだ。同紙がアーカイブを公開すれば、どういう可能性が開けるか想像できるだろうか?」と提起する。これが核心ということだが、過去のアーカイブを公開することで、同社のコンテンツがインターネットの潮流の中で大きな役割を果たすことができるという趣旨が続く。
オーケー。インターネットで多くの人に使われることは悪いことではない。僕自身、コンテンツ流通を仕事としているが、人類の英知がすべて集約された巨大なヴァーチャル図書館構想は1970年代からあり、実現すればそれは素晴らしいと思う。だが、短期的に Google でヒットするこがニューヨークタイムズ紙にどのような利益をもたらすというのだろう。その「可能性が開けた」場合、2500万ドルを上回る利益が稼げるのだろうか。
コンテンツソース、特にニュースサプライヤーはインターネットが出現したことで、いちおうにこのの問題に直面している。インターネットの出現で「そこそこ有益な情報」が無料で入手できるようになった。インターネットは新興、もしくはインディペンデントなニュース配信会社にチャンスを与え、個人レベルでの情報発信をも可能にした。この流れの中で大手のニュース配信会社はインターネットに可能性を見いだしながらも、従来のビジネスからの移行を行えずにいる。
政府が過去のコンテンツを買い上げない限り(これは僕がよく考えることだが)、民間は従来の売上を移行/拡大する計画を立てながらビジネスを進めなければならない。「記事を無料で公開し、お客様の利便性を向上しました」なんぞ、アマチュアのやることだ。短期でなくてもいい、中期計画でメリットをもたらす計画があれば、野心のある民間会社は必ず実行するはずだ。ニューヨークタイムズ紙やウォールストリートジャーナル紙が全面的に記事を解放しないのは、現実的にそのような計画が立たないからだ。
では未来永劫、コンテンツの解放が行われないのか。それは既存ビジネスの寿命が最も寄与するだろう。紙媒体による売上(これは残るかもしれない)、LexisNexis のロイヤリティが凋落し、ビジネスにならない時になってはじめて、大手出版紙は新しい道を本気で模索するかもしれない。ただ現時点では、「有象無象のノイズデータ」が99.9999% をしめるインターネット検索より、 LexisNexis の方がビジネスでの情報検索においては有用で、かえってコストが低いものであるのが現実だ。
「限りない可能性が開ける」なんぞ、絵空事で、ないものねだりといっていい。しかし、コンテンツ業界で働く人は真摯にこの可能性を開くために取り組んでいる。時代の要請を受け、プロとして売上を移行し、拡大する方法を探っている。誰もが自由に情報にアクセスすることで、自身の決定をより良いものにし、情報が人々の人生を素晴らしくする道具となる世界を作ろうとしている。
WIRED にありがちな「言いっぱなし」記事だと書いたのは、書き出しはいいが、結局は何にも役に立たない情報価値が最後でゼロとなる記事で締めくくることが多いからだ。インターネット出現後のメディアとしてアマチュアながらでも何かビジネスとなる種を提示すべきだ。そうでなくては暇つぶしメディアから脱却はできないぞ。
コメント
なるほど。
仮に譲って「無料にすると、可能性が開ける」と考えられる場合、そもそもニューヨーク・タイムズ紙の記事の質はそんなに高いのでしょうか。単純に知らないので疑問に思います。
記事の質がBBCと同等かそれ以下であれば、現在BBCでは無料なので、ニューヨーク・タイムズを無料にする必要はないのではと思います。