ちょっと分かりにくいタイトルだが、よくある「DTM をはじめたんですけど、ピアノは弾けないけどジャズ風な音楽は作れますか」的な質問への回答を自分なりに整理してみた。
どことは言わないけど、こういうネタは論戦になりやすい(笑)。要はリアルな楽器をマスターせずにその楽器を使った音楽は作れるわけないだろう、とか、ジャズ理論を知らずにジャズは理解できない、とか、いや、応用力があれば云々、フィーリングが云々。どの回答も視点・観点が違うだけで、まぁ、どれも一理ある。けど、結論どうすればいいのか、そんな話。個人的意見です。
○○は弾けないけど、○○を使った音楽を作りたい
まず、前提条件として「リアル楽器が弾けない(弾いたことがない)」かつ「楽器マスターの天才ではない」かつ「作る音楽は個人で楽しむレベルで、商業的に成功しようとか、ショパンコンクールで受賞するなどの高みは目指さない」という条件を確認しておきたい。前提を確認することはフォーカスの効いた議論をする上でのベースとなるからね。
この質問は「ギターは弾けないけどギター音楽を作りたい」「鍵盤は弾けないけどピアノメインの曲を作りたい」というもの。さて実際に出来るのか?
波形研所長の一次回答:できる
実際、自分はギターは弾けないがギターの曲は作ることができる(と思う)。ドラムは叩けないがドラムトラックは作っている。リアル楽器をマスターしないと曲が作れないというなら、オーケーストラ編成の音楽の作曲が可能な人は世界で数えるくらいになってしまう。よって、答えは「可能」だ。では、どうすればいいのか。
実際にできるようになるまでの道のり
(1)その楽器の特性、(2)目指す音楽におけるその楽器を使われ方、を学習する。
(1)その楽器の特性について。楽器には様々な個性・特性がある。例えば(普通の)ギターは弦が6弦あり、ピッチは E から C までの4オクターブ弱だ。だから、7つ以上の和音は物理的に演奏不可能だし、出力可能音域を外れた音は奏でられない。ギターとピアノはよく知られているが、トランペットの音域はどうだろうか。トランペットは和音を演奏できないので、和音を演奏するにはその分、プレーヤー数が必要だ。
次に楽器の構造的な特性。例えば(普通)ギターやピアノは発音時点より大きい継続音は発せられない。小さい音で打鍵してその音がだんだん大きくなるようなプレイだ。ギター・ピアノのサウンドは減衰傾向となる。逆に弓を使う弦楽器や金管楽器はそのようなプレイが可能だ。
もうちょっとマニアックな方向に粒度をあげると、オルガンには鍵盤が2列以上あるものがある。なので、同音域で同ピッチの音が鳴るパッセージを演奏可能であり、またドローバー設定により1台で複数の音色を同時に発音できる。
(2)目指す音楽における楽器の使われ方について。ギターの楽器特性が理解できたとしても、クラシックギターとヘヴィメタルでは演奏方法が違う。クラシックギターなら和音と主旋のコンビネーション、アルペジオやハーモニクスなどの音楽的バリエーションの理解が必要になる。ヘヴィメタルならクールなバッキングやソロ、グルーブを出すカッティングといった、音楽における楽器の使われ方を理解し、自分で再出力できなければならない。
エレクトリックギターは満足に弾けないが、ロックやメタルの作曲はできるし、ソフトウェア音源があればそれらしく入力もできるだろう。そのためには、「作りたい音楽を聴き込む」ことが重要だ。作りたい音楽を構成する要素をマスターすれば、ドラムが叩けなくてもドラムトラックを作り、ベースが弾けなくてもベースパートを作り、といったことができるようになるはずだ。そして、今のテクノロジーはサウンドの再現までを可能にしてくれる。「楽器が弾けなくても音楽が作れる」それが DTM の醍醐味、というものだ。
ただ、音楽によっては、楽器が弾けないと辿り着けない領域がある
前述の回答に「一次」が付いているのは、その回答がスケーラブルではないということだ。この回答には限界がある。音楽のジャンルや領域によっては、楽器が弾けないとお話にならないものがあるのだ。
例えば「ジャズ」。子供の頃にクラシックピアノを習った人(しかもまぁまぁな線まで行った人)が「ジャズを弾いてみたい」と思っても、まずうまくいかない。
理由はいくつかある。例えば「ジャズには教科書がない」というものがある。いや、もちろん教則本はある。けど、教則本でジャズが弾けるようになった人っている?
ジャズが弾けるようになるには、ジャズにおける言語体系を理解し、それを演奏できるような鍛錬が必要だ。言語系とはコードバリエーションにコード進行、そしてスケールだ。そして鍛錬というのは、セッションでアドリブでソロをとるような「リアルタイムでの瞬発性演奏訓練」だ。
個人的見解では、これら双方をマスターしないとジャズは演奏できない。コードネームから最適なコードポジション(押さえ方)を設計する。バッキングは「ここだ!」というところで打鍵する。アドリブソロでは感覚的&瞬発的発想からストーリーを構築してプレイする。途中、仲間のプレーヤーや観客とのコミュニケーションによってはリアルタイムでプランを変更しなければならない(インプロヴィゼーションっていうやつ?)。
ジャズに限らず、ブルースもそうだ。ブルースギターはギターが弾けないと着想できない。頭だけでは限界がある。聴き込むだけでは再現ができない。リアルタイム性が必要な音楽ジャンルだけの傾向かと言えばそうではない。クラシックピアノをきちんと弾くには、思い描いたアプローチを実現する繊細なテクニックが必要だ。またテクニックがないと、そこから先の着想に繋がらない。
要するには、「音楽によっては、楽器が弾けないとマスターできない領域がある」ということだ。
でも最初はそんなことは考えなくても全然いい
まぁ、そんな理論じみた話をしても「オンガク」ははじまらない。シンセサイザーをセットする。鍵盤を押す。「ミヨーン!」と音が出る。「!!」とハッとする。最高じゃないか。
音楽は自己表現だ。音楽は何千年もの昔から多様性重視だ。
自分が満足できないのであれば練習すればいい。趣味での音楽は自由度が自慢だ。
社会人になって「ギターを弾けるようになりたかったです」なんて言う人には、「とっととギターを買え!」と助言したものだ。高校時代にバンドを組んだとする。中学からギターを練習してた奴はもうヒーローだっただろう。でも彼が練習したのは3年そこそこだ。30歳になってからの3年は33歳。45歳の人の3年後は48歳だ。ピアノは幾分大変だ。満足に弾けるようになるには6年は欲しい。でも6年後にはピアノが弾けるようになるんだ。最高じゃん!
まぁ、波形研究所の見解はそんなところだ。参考になればいいのだが(笑)。
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