Moog Subharmonicon を手に入れた。衝動的に手に入れてしまったんだけど、そういう出会いをした楽器の方が手元に残る気がする。前にこういうことがあったなぁ、と思い返すとそれは Moog MINITAUR だったなと思ったり。基本、音源はソフトウェア化方向で、Behringer Model D すら売却するくらいなんだが、Moog のマシンはなぜか増える一方。波形研究所だから波形を眺めていたい。波形のゆらぎをぼんやり眺めているだけでいい。これは「癒し」だ。
そんなこんなで、「次に買うハードはオシロスコープだろうな」なんて思う今日この頃。ということで、Moog Subharmonicon のレビュー をしておこうと思う。
Moog Subharmonicon アナログシンセサイザー
なぜ、定番の Moog Mother 32 ではなく Moog Subharmonicon を選んだのか。それは Subharmonicon が非常にエッジが効いた(偏った)個性のある楽器だからだ。Subharmonicon 単体でアナログシンセサイザー + シーケンサー構成のアナログ時代のワークステーションであり、アンティークのカラクリ時計のような「1つの変わった楽器として完結している不思議な魅力」があるのだ。
サブハーモニクスオシレータとポリリズムシーケンサが特長の実験的なアナログ・シンセサイザー Subharmonicon 。解説を読んで分かったようで、実際のところよく分からないシンセサイザー、という印象の人が多いと思うが(自分もそうだった)、Subharmonicon のサウンドメカニズムを理解すると、この楽器が実にユニーク(一風変わっている・独特な)であることが分かると思う。
今回は、音源パート、特徴であるサブハーモニクスオシレーターを中心にみていこう。
サブ・ハーモニクスとは基音を整数で除算して得られる音
ハーモニクス
まず、ハーモニクスについて復習しておく。ハーモニクス(harmonics – Overtone) はだいたい倍音のことだ。基準となる音(基音の周波数)に対し、整数倍の周波数を持つ音のことだ。Wikipedia の解説のように、基音を C3 とすると、2倍でオクターブ(C4)、3倍はオクターブと完全5度(G4)、4倍は2オクターブ(C5)、5倍は 2オクターブと長3度(E5)、同様に G5 Bb5 C67 D6 E6 F#6 G6 A6 Bb6 B6 C7 と続く。
弦楽器を弾く人は感覚的に分かりやすいかもしれない。ハーモニクスは弦の中心(2等分・2倍) 12フレットで1オクターブの音が鳴る(2倍)。7フレットで5度が鳴る(弦長を3等分・3倍)、5フレット(弦長 4等分・4倍)でさらにオクターブ。うまく鳴らせばもっと高い音が出せる。が、基準音付近ピッチを刻むことはできない。高い音がいろいろ鳴る感じ。シンセサイザーが好きな人だったら変調した時の一見不規則な倍音がお馴染みかもしれない。倍音はこのように動くので覚えておこう。
サブ・ハーモニクス
ハーモニクスが基音を整数で乗算するのに対し、サブハーモニクスは整数で除算する。倍音は基音より音が高い方向に積み上がるが、サブハーモニクスは低い方向に積み上がっていく。
基音(f)を C5 とすると、f/2(C4)、f/3(F3)、f/4(C3)、f/5(Ab2)、f/6(F2)、f/7(D2)、f/8(C2)というピッチになる。サブハーモニクスは倍音 Overtne に対し、Undertone とも呼ばれる。ちなみに機械翻訳のような変わった日本語のマニュアルには f*2 f/2 のように記載されていて、ピッチ表がない。基音が何かでピッチはかわるけど、ノート距離くらい記載してくれればいいのに。
ということで、音楽的に分かりやすくするために Overtone / Undertone を楽譜にしてみた。発音される音の距離を理解しておくと Subharmonicon を操作する際に便利だと思う。
Subharmonicon のサブハーモニクス・オシレーター
Moog Subharmonicon は乗算ではなく除算してハーモニクスを発信する「サブハーモニクス・オシレータ」を搭載しているシンセサイザー。そう、TD-3-MO やキック補正で使う SUB OSC の SUB はメイン・サブのサブではないんだね(笑)。サブ・ハーモニクス・Undertone を発音するオシレータということなんだ。
サブハーモニクスオシレータは除算なので倍音は低い方向に現れる。なので、低音補強に使う機能として採用する際は、2で除算(1オクターブ下)を固定で鳴らして調整ツマミはレベルのみ、という実装が多い、ということなんだ。すっきり。
Subharmonicon は、ハーモニクスは Resonance 、サブハーモニクスは SUB OSC によって、Overtone / Undertone の双方をカバーするユニークなサウンドエンジンを搭載しているシンセサイザーということだ。ほら、興味湧いてきたでしょ!
–オフィシャルページの解説
Subharmonicon の特徴的なサウンドは、2つのアナログVCOと4つのサブハーモニック・オシレーターから生み出され、合計6つのパワフルな音源になります。それぞれのサブハーモニック・サウンドは2つのメインVCOの1つから数学的に導き出され、最終的な和音が美しくまとまりのある音質になります。
テクノロジーを理解することで、このエレガントで何を言っているのかよく分からない解説文の意味が分かったと思う。
- メインVCOの1つから数学的に導き出され = VCO ピッチを整数で除算するサブハーモニクスオシレータが付いてます
- 最終的な和音が美しくまとまりのある音質 = いろいろ調節して和音を美しくまとめてくれよ
という意味と分かる。おい、なんだよ後半は(笑・後述)。
Subharmonicon の音源構成
Subharmonicon のオシレータ構成は (VCO + SUB 1 + SUB 2 ) × 2 となっている。発音ソースが 6機のパラフォニックというゴージャスな構成。メインの VCO は 262Hz – 4186Hz(4オクターブ)、SUB は 16段階(f/16)まで鳴る。波形は矩形波(square wave)とノコギリ波(sawtooth wave)をスイッチのアップ・ダウンで切り替える。ミドル位置は変わっていて、VCO 矩形波 + SUB ノコギリ波で発音する。PWM をかけたような効果になるし、SUB のピッチを OSC にフィードバックするので、OSC が 2つのピッチで鳴ったりする。音作りでは美味しい設定だ。
ちなみに、サブハーモニクスオシレータは除算、つまり倍音が低い方向に積み上がる。だからサブオシレータは逆時計回りが基本。右に振り切ってユニゾン。そこから左に回すと低音が付加されていく。覚えておこう。
面白いのが QUANTIZE というボタン。オシレータのダイヤルを動かした際のピッチの変化を連続的/音階的に設定できる。なるべく正確なピッチを出力しようとしていたアナログシンセサイザーの名残のような機能だが、Subharmonicon の場合、平均律と純正律が選択できる。さきほどの解説文の「和音が美しく」は純正律が選択できることを指しているんだね。ハーモニクス・サブハーモニクス自体が平均律では鳴らないから、純正律の方が馴染むかもしれない。3度和音の響きで確かめて欲しい。
ミキサーは 6機のオシレータに対応したレベルを調節できる。マニュアルによると、最大値で少しウォームに歪む設定になっているようだ。「クリーントーンを出したいなら中間に設定せよ」とある。実機ではそんなに派手に歪まないが DIST スイッチ・ノブがあるような動きをしてくれる。メインパネルからは分からない仕様。こういうところがアナログっぽい。
最後にフィルター・エンベロープジェネレーター。Moog 特有の暖かみのあるローパスフィルターが搭載されている。エンベロープは VCF / VCA それぞれアタックとディケイのみ。VCF エンベロープジェネレーターには VCF EG AMT というダイヤルがあり、カットオフ周波数の効きの深さをコントロールできる。アタックとリリースでのフィルターバランスを設定できるんだが、右に回すと過激に、左に回すと穏やかになるイメージだ。ちなみに VCA EG はリトリガーがかからないタイプ、正確にはアタック処理が終わらないとトリガーがかからない仕組みになっている。
以上が音源部の紹介だ。次回はシーケンサー部、そしてパッチベイ・ハードウェア、作例などを紹介していこうと思うが、まだ触り始めたばかりなので、のんびり書いていければと思っている。お楽しみに。
ちなみに円安が進んでおり、新在庫から大幅に値上がりするという噂もあります。あるところでは4月1日から MINITAUR が旧想定売価 ¥70,400 → 新想定売価 ¥79,200、Mother 32 が旧想定売価 ¥88,000 → 新想定売価 ¥92,400 と改定しており、旧価格在庫が飛ぶように売れているという局面です。円安傾向は以前より悪化・長期化の様相を呈しているので、海外製品は注意が必要ですね。
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