Moonshot(ムーンショット)、最近シリコンバレーではおなじみの言葉。月面に人類を到達させたアポロ計画のように、常識では実現不可能と思われるほどの難度の高い野心的なプロジェクトを指す言葉で、X(元 Google X) が「ムーンショット」という言葉で自分たちのプロジェクトを表現し、ポピュラーになった。
このムーンショット! は、ムーンショット級の事業を開発するためのビジネス本として書かれた本だが、著者はあのジョン・スカリーだ。Apple ウォッチャーからすると、
なんて思うのだが、目次をパラパラとめくって買うことにした。
4-7 困難からの方向転換
わたしの失敗 – ニュートン
ニュートンとその後
ほう、面白そうでないか。そうだ、僕は Apple ウォッチャーの前に、Newton Technology ストーカーだったのだ。
確かに、 Newton はムーンショットなプロジェクトだったのかもしれない。なぜなら Newton は当時の技術では到底実現が不可能だった「ユーザのタスクを理解し支援する人工知能的なアプローチのインターフェイスを持つ、モバイル・パーソナル・デジタル・アシスタント」だったからだ。Siri(iPhone) は話しかけることにより動作する人工知能(的)アシスタントだが、Newton は iPhone 登場の遥か前の 15年前、Siri に限っていえば 18年前に同じような動作を実現していた( Newton は 1993年8月に発売された)。
例えば、Newton は “Meet Basuke at 7:00 pm Friday” とノートに書き Assist ボタンを押すと、カレンダーを開き次の金曜日の午後7時に「バスケ氏と会う」というイベントを登録 してくれる。Notes に書かれた文字は自動的にテキストに変換され、Assist と指示することで文脈を理解してタスクを実行する。カレンダーにイベントを登録したり、電話をかけたり、Fax を送ったり、メールを送ったり。
もちろん、その技術レベルは惨憺たるもので課題は多かった(みごとな課題の塊だった)。しかし、そのプロダクトは技術的にみれば非常にイノベーティブだったし、経営学的にも Apple II / Mac の次を担う事業が必要だった Apple にとっては実に真っ当でかつ超・野心的なプロジェクトだったんだと思う。
そんなことを考えると、ナレッジナビゲーター(Knowledge Navigator)というコンセプトをぶち上げたジョン・スカリーは技術オンチどころか、イノベーターだったのかもしれない。
スカリーは Newton を発売開始する前に Apple を追い出された。その後の Apple は酷い有様でジョブズが帰ってくるまで、どの CEO もまぁ、似たようなものだった。このムーンショット!を読むと、スカリーもしっかりとした技術視点を持っていて、かつジョブズのようなクレイジーさはないものの、バランスのとれたビジネスマンだったんだなぁと思う。自分で大きなビジネスを起業することはなかったように思うが、なお現役でベンチャー支援を続けているスカリーの「今、考えていること、思うこと」を聞くのは楽しい。
途中にはジャン・ルイ・ガゼーやスティーブ・キャップス(スティーブならサコマンも)、当時の Apple の状況の説明もある。MacOS をライセンスする話も出てくるし、まぁ、懐かしさも満載だ。そして、スティーブ・ジョブズの活躍については、なんというかこう、やっかみも妬みも全くない、どこか父性を感じる言葉で綴っている。
ビジネス書としても面白いし、Newton ファンにはマストの本だと思います。なんせ、Newton 生みの親の本なんだから。
コメント
Assistボタン、懐かしい! 「バスケ氏」のお名前も! あの頃は皆んな夢を追いかけてたんでしょうねー。楽しかったなぁ…
どうも。なんというか、Newton は iPhone のようなキャリアビジネスではなく、手の届くところにありましたよね。ぶっ飛んでたし。