Apple 本、久しぶりに読んでいる。Creative Selection Apple 創造を生む力 ケン・コシエンダ(Ken Kocienda)著。Apple の本は大まかに分けて下記のタイプがある。
- Apple 歴史本・内幕暴露本
- Steve Jobs(または Jonathan Ive など有名経営陣)の伝記
- デザインに関する本
- 経営戦略・社会影響に関する本
- 製品解説・開発ガイド本
- テクニックノウハウ本(プレゼンテクだの、リーダーとしてどうのこうの)
個人的に 6番はこじつけが多く、Apple については人に解説される以上に把握しているので「読まない」と決めている。今回の本は第4分類の本だ。
Creative Selection Apple 創造を生む力 – どんな本か
iPhone、iPad、Sfari はいかにして生まれたのか?
元社員が、アップル全盛期のアイデア実現法を独白。「極秘」とされてきたアップルのアイデア・メソッドを気鋭のクリエイターが解き明かす1冊です。1章 アップルの極秘会議――世界で最もシビアなミーティング
2章 もっといいアイデアを、もっと早く――シリコンバレー式 超生産・仕事術
3章「時間」と「熱量」の法則――どれだけやったら「充分」?
4章 超・一点突破――スーパー・パワープレー
5章「味方」をつくる――自分のために「気持ちよく」働いてもらう
6章「明確かつ具体的」であれ――「答えのない問い」でも正解を導ける
7章「前のアイデア」に戻る勇気――「やり直す」ようで飛躍する
8章 一気に「収束」させる――最後、手を抜くと「何もかも」終わる
9章 Appleの考え方――アイデアの出発地点
10章 熱狂――「ゲームチェンジャー」の哲学
という本。確かに Apple が具体的にどのような製品開発プロセスをとっているか、について書かれた本はあまりない(基本、NDA があるから書けないんだろう)。
本書も Apple 謹製の製品開発プロセスを紹介しているのではなく、自分が担当したプロジェクトで「これって重要だなぁ」とか「これって Apple らしいよなぁ」といった気づきを書く体裁をとっている。この本に登場する多くの人物が既に Apple を去っている(Steve Jobs もその一人だ)。なので書きやすかったんだろうと思うし、まぁ、世に出版されるまで、これくらいの時間がかかるんだろう。
ちなみに、先に書いちゃうけど、現在の Apple の話ではない。iPhone、iPad、Safari が世に出る頃の Apple の話だ。現在の Apple は筆者によると、その頃の「情熱」や「奇跡的な体験」「真にイノベーティブな体験」が薄れている印象を受けているようだ。
ただ、Steve Jobs に対する製品(機能)デモのリアルな描写や、異常なまでにイノベーティブだった頃の Apple の製品開発の裏話は満載だ。文体がちょっと冗長的だけど、Apple ファンのための史実本としておススメできる。
Appleファン的に面白い観点
ネタバレすることなく、Apple ファンが面白い!と思うだろう観点を紹介しておく。
Steve Jobs への機能デモ
Steve Jobs に iPad のソフトウェアキーボード、iPad ジェシュチャーをデモするシーンが紹介されている。開発者にとっては、とてつもなく巨大な緊張・ストレスとなる Jobs へのプレゼンがどのようなプロセスで設定され、どんな部屋でどんなメンバーで行われるかが詳しく書いてある。幸い、著者はボコボコにはされなかったようだ。
Safari の開発
マイクロソフトとの協調関係からデフォルトブラウザーだった Internet Explorer から脱却し、Apple 純正ブラウザ Safari が発表された時を知っている人なら、ニンマリくる逸話が満載だ。Safari が最初にどのブラウザ技術を検討したか、チームの大きさ(驚くほどメンバーは少ない)、WebKit 開発、Konqueror on KDE / KHTML 採用のいきさつなど。ここが一番面白い。
iPhone / iPad 搭載ソフトウェアキーボードの開発
物理キーボードからスクリーン投影型のキーボード、特に初代 iPhone の狭い画面でキーボードを機能させる苦労話。
Mail のレンダリングエンジン開発
Steve Jobs が MacOS X リリース後も長く NeXT を使っていたことは知られている。報告を受けたり指示をするためのメールクライアントソフトウェアが「クソ」と思ってたからだ。Mail を WebKit ベースのマルチメディア表現可能なメールクライアントにするための(本人の)苦労話。
ちなみにニュートン(Apple Newton)もたびたび登場する。入力メソッドを失敗したために売れなかったデバイスとしてだけど。
ということで、久しぶりにあの頃の Apple の開発現場の雰囲気が分かる本としてオススメです。
コメント