Sugar Btyes のモジュラーシンセサイザー Factory の iPad 版、Factory for iPad がリリースされた。Sugar Bytes Factory は Mac / PC 版が 2016年頃にリリースされている。たしか、20,000円弱で販売されていたと思う(現在は $139)。
Sugar Bytes といえば Native Instruments Reaktor の元開発者というイメージ。面白い音源をいくつもリリースしている。最近、モジュラーシンセサイザーが流行っているけど、iPad 版でしっかり動くので興味を持つ人も多いと思うので、ちょっと詳しめに紹介しておく。
Factory – Liquid Modular Synthesizer
Factory はオシレーターからフィルター、モジュレーター、シーケンサー、エフェクト、キーボードコントローラーなど、シンセに必要なモジュールが全部用意されたワンパッケージタイプのモジュラーシンセサイザー。出音はアナログというより、デジタルシンセサイザー感が強い。それは、オシレーターの波形がバラエティに富んでいることが理由。もちろん、アナログっぽい太い音も出せる。
まずはスペックから。
- Mod-Matrix とシーケンサを搭載したポリシンセサイザー
- 10タイプ、2系統のオシレーターエンジン
- リングモジュレーション搭載のサブオシレーター
- 5タイプのノイズジェネレーター
- 8-Voice VA-Sync、ウェーブテーブル、ウェーブガイド、フラクタル合成
- 36個のターゲット、8×10 のモジュレーションマトリクス
- モーフフェーダー、2つのステータス、コピー/貼り付け
- エンベロープとLFO
- サンプル&ホールド・モジュール
- Audio Unit v3 & スタンドアロン
- バーチャルネットワーク、外部・Bluetooth MIDI
- Ableton Link、MIDIラーン、ホストオートメーション
- iCloud同期
Factory for iPad を理解する
各モジュールはモジュラーシンセサイザーのようなインターフェイスになっているので、信号の流れ方や操作は分かりやすい。右上にあるマトリックスの使い方、4トラックあるシーケンサーの使い方が分かれば、もっと鮮明に理解できると思う。
ユーザーマニュアル
iOS アプリはマニュアルがビルトインされていることが多いけど、ユーザーマニュアルが英語版だけど用意されている。ダウンロードすべし。
オシレーター
サウンドの出発点であり要のオシレーターは、PULSE SYNC、SAW SYNC、SAW FRACTAL、FM FORMANT、TRANSFORMER、WAVETABLE PWM、WAVETABLE SYNC、WAVETABLE FORMANT、WAVETABLE DRONE、WAVEGUIDE と10種類・2系統用意されている。このバラエティに富んだエンジンの品揃えが Factory らしいんだけど、難しい用語がならんでいるけど適当にいじればよろし。
ユーザーマニュアルのオシレーターページを開けば、各タイプがどんな波形を意味するのか、アイコンで表現されているので、目を通せば問題ないと思う。
SAW FRACTAL なんて Fractalize ダイヤルをまわすだけで「いぇーい!これこれ!!」ってなる(笑)。後述のモジュレーションマトリクスでパラメーターを動的にコントロールできるので、そこが面白い音色を作るキモかもしれない。
フィルター・ドライブ
シンセサイザーで一番動かして楽しいのはフィルター。2/4/8 ポールのローパスフィルターが用意されている。バンドパス、ハイパス、ピークも選択できる。ドライブはタイプ選択とルーティング(直接ドライブ、フィルター経由ドライブ)を選択できる。
モジュレーター
エンベロープ、LFO、サンプル・ホールドなど、アナログシンセサイザーの構成とほぼ同じ。
モジュレーションマトリクス
分かるようで分からないのがこれだよね。これはモジュラーシンセサイザーのパッチセクションをソフトウェア化したもの。あのケーブルでいろいろ繋ぐやつだ。このパッチにより信号の流れを自由に操作できる。アナログシンセサイザーの場合、信号とは「電圧(変化量)」ともとらえることができる。音色の音色・波形が流れるというより、電圧変化・変化量がパッチされたところに流れる、と考えれば分かりやすい。
まず基本の1つ目。左側の軸に並んでいるのが信号の流れ元である「モジュレーション・ソース」。下側に並んでいるのが信号の流れ先である「モジュレーション・ディスティネーション」だ。左の軸から下側に信号が流れる、ということ。
2つ目。Factory はソフトウェアなので、単に要素をパッチ接続するだけでなく、+/- 流量を指定できる。マトリックスの接点に点があるが、青だとプラス、紫だとマイナス、点の大きさが流量だ(ドラッグで操作する)。
例えば、フィルターの CUTOFF のダイヤルを見るとプラス方向とマイナス方向がある。青だとこのプラスにひねってる感じ、紫だとマイナスにひねってることになる。そして点の大きさがひねり具合を表現している訳だ。オーケー?
次にどう使うのか。パッチの目的は、「信号を上流にパッチし過激な変化を求める」とか「エンベロープやシーケンサーの動きで各パラメーターを変化させ、動きを作る」あたりが王道。
パッチについては、いろいろやってみるしかない。基本的な信号の流れは既に用意されている訳でシンセとしては音が出る。その上で信号のルーティングをするんだし、いかんせん自由度が高すぎるというのもあるが、まぁ、試すしかない。思ってもみなかったルーティングを実現するランダム機能(さいころアイコン、さいころアイコンをドラッグアップするとランダムにマトリックスの接点が増加する)も用意されている。
シーケンサー
モジュレーションマトリクスが理解できれば、後はシーケンサーが使えるようになればいいと思う。もうちょっとシンプルでもいいような気がするが、モジュラーシンセだからこうなるか、という仕様。シーケンス部をいじっても何も起こらない、ってなっちゃう。
まず、Factory に搭載されているのはステップシーケンサー。4トラック・16ステップである。これが基本。
Factory のシーケンサーは各ステップに変化波形を指定できる。単純なオン・オフだけでなく、なだらかに変化するスライド効果や刻むスライス効果など選べる。シーケンス部の右側にもさいころアイコンがある。これを使うと分かりやすい。
そして、シーケンサーを何に接続するかはパッチで決める(マトリックスで選択する)。通常のシーケンサーは基本、ピッチに接続されていてキーボード演奏を自動化するようなイメージがあるが、モジュラーシンセだと、このシーケンサーで指定した動きをフィルターにつなげば動的変化のある音が作れるし、ピッチにつなげば音程をコントロールできる。ここがポイントだ。
シーケンサーに慣れるまでは、アルペジエーターも搭載されているから、そっちを使うといいかもしれない。Arpiculationセクションにある。パターンをいろいろ選べるので簡単にかっこいいシーケンスパターンを演奏できる。
Factory for iPad でモジュラー修行
この Factory for iPad、ダウンロードするだけで大半の機能を使うことができる。Audio Unit 機能や 400のプリセット、Save / iCloud Sync などを使うには 2,200円のアプリ課金が必要。
でも、Mac版にくらべれば 1/10 の価格。かなり遊べると思うのでおススメしておきます。
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