Moog Subharmonicon 探求 – 第2回 シーケンサーを理解する・ポリリズムとサブハーモニックオシレーターが作り上げるカオスな世界

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Moog Subharmonicon

Moog Subharmonicon を探求する本連載、第1回「サブハーモニクスを理解する・整数で除算し発音するオシレーターを搭載したアナログ・シンセサイザー」に続き、2回目はあの難解なシーケンサーについて。

Subharmonicon のシーケンサー、これまた振り切った仕様で、「実用的にシーケンサー機能を内蔵させよう」という方向では全くなく、「なんか不思議なパターンが鳴り続けるアナログ・シンセボックスを作ろう」と思ったからなのか、まぁクセがある。ベリのシーケンサーのように「なんか覚えにくい」という感じではなく、「?なんか分からない?」という感じ。

書いているうちにスーパー難易度の解説になってしまったが、Subharmonicon が搭載しているシーケンサーを、気持ち分かりやすくレビューしていこうと思う。頑張ります。

Moog Subharmonicon のシーケンサーを理解する

Moog Subharmonicon

シーケンサーはあらかじめ設定したシーケンスにもとづき自動的に演奏してくれる機能。一般的なシーケンサーの構成は、トラックとして「音の高さ」「音の長さ」「音の順番」を管理し、そのシーケンスで発音する「音色」を割り当て、最終的に演奏するスピードを決める「テンポ」でコントロールする、という形をとる。

Moog Subharmonicon のシーケンサーは、2トラックの 4ステップ・シーケンサーだ。

構成は少し変わっていて、シーケンス(トラック)として「音の高さ」「音の順番」を 2系統(SEQUENCE セクション)、シーケンスの再生速度を 4種類設定(POLYRHYTHM セクション)する構成になっている。

シーケンサーの宏世

通常のシーケンサーでは再生スピードはマスターテンポの 1つだけだが、Subharmonicon はシーケンスの個々の音について「音の長さ」を設定できない変わりに、シーケンスを再生するタイミングをコントロールする装置が 4つ付いているのだ。つまり、2つのパターンを 4つのリズムで鳴らすことができる。

この「2つのパターン」を「4つのリズムで」という部分が分かりにくいのだが、モジュラーシンセのパッケージングだと考えれば分かりやすい。

Subharmonicon のシーケンサー構成

Subharmonicon のシーケンサー構成

4つのリズム、POLYRHYTHM は実際のところクロック・ディバイダー(分周器)またはクロック・ディストリビューターだ。クロック・ディバイダーはクロックやトリガー信号を分周するためのモジュールで、シーケンスを動かすために使う。クロック・ディバイダーが発信するタイミングでシーケンスのステップを進行させる。

クロック・ディバイダーとしては 4MS Quad Clock Distributor が有名。1つのクロックを分割・倍増させて、キック・スネア・ハイハットのようなベーシックリズムのトリガーにすることができる。4MS Quad Clock Distributor がクロックを分割・倍増できるのに対し、Subhharmonicon の POLYRHYTHM は倍増方向しかできない。

Moog Subharmonicon のシーケンサーセクションの解説

moog-subharmonicon-panel

それでは、シーケンサーについて個別にセクションをみていこう。

SEQUENCER

Moog-Subharmonicon-SEQUENCER

SEQUENCER は分かりやすい。ステップ数は 4つ。各ステップにピッチを指定する。ノブは12時がゼロ値になっていて、右がプラス・左がマイナスだ。

可変域は ±5 / ±2 / ±1 をオシレーター中央にある SEQ OCT ボタンで指定する。なので、ノブで指定するピッチはこのレンジ指定により変化する。指定する音程は QUANTIZE ボタンにより音階・スムーズ変化を選べるのでピッチを探り探り指定することも可能だ。±5 にすると変化が激しくてまともに操作できないけど。

POLYRHYTHM

Moog-Subharmonicon-POLYRHYTHM

SEQUENCER で指定した「音の高さ」「音の順番」を再生するタイミングをコントロールするのがクロック・ディバイダー、POLYRHYTHM セクションだ。2つのシーケンスパターンを 4つのクロックで再生する。

再生スピードは、マスターテンポを 1-16 の整数で分周したタイミングになる。ノブを右に回し切ったポジションが周波数は f/1 で分周、つまりテンポと同じスピードで再生され、左に回すとクロックがゆっくりになっていく。

例えば ♩=240 は 4Hz(0.25s)。これを 2で分周すると 2Hz(0.5s)、3で分周すると 1.33Hz(0.75s)、4で分周すると 1Hz(1s)、5で分周すると 0.8Hz(1.25s)、最大の 16で分周すると 0.25Hz(4s)と、左にまわすとスピードがゆっくりになっていく。

このタイミングが異なるリズムを掛け合わせるとポリリズムになる。

RHYTHM 1-4 は異なったクロックでトリガーする(シーケンサーを動かす)が、その周期は同一である。リズム譜で書くと難しいが、1小節を 3分割するパターン(RHYTHM 1)と 4分割するパターン(RHYTHM 2)を同じシーケンサー(SEQ 1)につっこむと、SEQ 1 はこんなリズムで演奏されることになる。

ポリリズム

付点音符やシンコペーションに似ているが、これらが「音の長さの最小単位がいくつ分なのか」という概念なのに対し、ポリリズムは「1周期を分割するパターンがいくつ重なっているのか」、と基本的な概念が全く異なる。作曲は楽譜の世界ではなく「感覚」の世界だ。

RHYTHM 1-4 は SEQ 1-2 に好きなようにアサインできる。SEQ 1 に 3つのリズムを突っ込んで複雑なパターンにして、SEQ 2 には別のクロックで、なんてことができるわけだ。

このポリリズムが Subharmonicon のシーケンサーの1つの山場。そしてもう1つの山は遭難レベルだ。

SEQ ASSIGN

そしてもう1つの険しい山が SEQ ASSIGN だ。この機能はモジュラーのパッチ(配線)ありきでイメージしてた方がいい。配線した結果がどうなるのか、という順番で理解する。少なくとも結果の状態を明確に目指して実装された機能ではない(笑)。

SEQUENCER は 4つのステップ、 4つのピッチを提供する。しかし SEQUENCER が提供するのはあくまで「電圧」であり、絶対的な音程ではない。オシレータの周波数に対し、どれだけ加算するか減算するかを記憶しているにすぎない。

だから VCO FREQ や SUB FREQ を動かすとピッチは動いてしまう。これが最初のルールね。

Moog-subharmonicon-mixer

SEQ ASSIGN はその SEQUENCER をどのオシレータに接続するかを設定する。OSC / SUB 1 / SUB 2 をそれぞれオン・オフできるボタンが用意されている。

例えば、全部消灯すれば… そう。ピッチは提供されず、リズムだけが提供される(同じ音が POLYRHYTHM で作成したリズムで鳴る)。OSC をオンにすれば…. オシレータの設定した周波数を基音としてピッチを動かしてくれる。

問題は SUB オシレータだけをオンにしたり、OSC / SUB の双方をオンにした場合だ。もうこれは本当に分からない世界、カオスだ。

実験してみよう。前提条件は以下のように設定する。

OSC 1 FREQ : ±0 C5
SUB 1 FREQ : f/2(-12) C4
SUB 2 FREQ : f/3(-19) F3

つまり、OSC がド、SUB 1 が 1オクターブ下のド、SUB 2 がその下のファ、が鳴っている状態だ。これに対し、SEQ 1 で +2 を与えてみる。どうなるか。

× OSC
× SUB 1
× SUB 2
○ OSC
× SUB 1
× SUB 2
× OSC
○ SUB 1
× SUB 2
× OSC
× SUB 1
○ SUB 2
○ OSC
○ SUB 1
× SUB 2
○ OSC
× SUB 1
○ SUB 2
○ OSC
○ SUB 1
○ SUB 2
× OSC
○ SUB 1
○ SUB 2
OSC C5 D5 C5 C5 D5 D5 D5 C5
SUB 1 C4 D4 C5 *1 C4 D5 *2 D4 D5 *3 C5 *4
SUB 2 F3 G3 F3 C5 *5 G3 D5 *6 D5 *7 C5 *8

もう奇々怪々だ

SEQ 1 は周波数に対し +2 をしている。ASSIGN がオンならば +2 、オフならば ±0 をあたえる。VCO は ASSIGN されれば C5 → D5(+2)になるし、オフだったら C5 のままだ。

問題はサブハーモニック・オシレータだ。サブハーモニック・オシレータの +2 はピッチが +2 するのではなく、アンダートーンが 2段階進むということだ。

*1 *4 は SUB 1 にだけ +2 が流れている。なのでサブトーンを 2段階上がる動きをしたい。が、SUB 1 は FREQ f/2 だから 2段階カウントアップできず、f/2 → f/1 の C5 が鳴っている。

*2 *3 は OSC と SUB 1 に +2 が流れている。OSC に +2 が流れているので SUB 1 の基音は D5 だ。基音に D5 にサブハーモニックを 2段階カウントアップしたい。が、同様に f/2 の 2段階カウントアップはできず、D5 の f/1 で同じピッチの D5 が鳴っている。

お分かりいただけただろうか(笑)

おそらく実機が手元にないと、想像がつかないと思う。というか、実機があったところで サブ・ハーモニクスの変化が音階的ではないので、(操作している瞬間の演者の理解力では)予測不能という感じだ。

万華鏡の像の動きは数学的に説明がつくはずなのに、実際に動かして眺めている時には像の変化を予測できず驚きの感覚がある。あれに似ている。

Subharmonicon は1つの完結した楽器として設計されている

Moog Subharmonicon

Subharmonicon は「1つの完結した楽器」として機能するように各機能が統合的に設計されている。単純にアナログ・シンセサイザーにシーケンサーを付けて、「いろいろ作ってみてくださいな」というものではなく、「こういうことができる楽器なんです」という明確な意志を感じる。

なぜ、シーケンサーが 2系統 4ステップとコンパクトな割に、4つもクロックディバイダーが付いているのか。なぜシーケンスパターンを流し込めるオシレータを個別にアサインできるのか。そもそもなぜサブ・ハーモニックオシレータを4機も積んでいるのか。

アンビエントなシーケンスを作る場合、ループするメロディー、コードを感じさせるアルペジオ、展開を感じさせる動くベースと、 3つのパートが欲しいところだ。

Subharmonicon は音源が 2系統あるのでメロディ・コードアルペジオと 2つの役まわりで分けて演奏させることができる。6つのオシレーターを搭載しておりパラフォニックな演奏ができる。そして、シーケンスはアサインにより、動きのあるベースパターンを鳴らすことができるのだ。4機のリズムで予測不能で幾何学的なパターンを展開するがポリリズムなので、パターンは一定の周期で収束する。

Subharmonicon はアンビエント・ドローンやミュージックボックスをイメージして設計された実験的な楽器なんだと思う。

Subharmonicon は考えて操作しようとしても無駄だ。それは楽器への理解が足らないからうまく操作できないのではなく、設計思想が「偶然を狙っている」からだ。

アナログ電子回路と数学と音楽理論とポリリズムが1つになった特殊な楽器。そんな楽器ないでしょ、普通(笑)。それが Subharmonicon の魅力なんだねー。

moog モーグ/SUBHARMONICON セミモジュラー アナログ・シンセサイザー
MOOG Chassis Products
4つのサブ・オシレーターと2つの4ステップ・シーケンサーを実装。
MOOG(モーグ) MINITAUR アナログ ベース シンセサイザー [並行輸入品]
MOOG Chassis Products
TAURUSベースペダルシンセの心臓部を取り出して、使いやすくコンパクトにまとめた2VCO、アナログモノシンセ。MIDI搭載。
moog Mother-32セミモジュラー・シンセサイザ (モーグ)
MOOG Chassis Products
MoogMother-32はMoog初のテーブルトップ型セミモジュラー・シンセサイザー。

コメント

  1. ソースフリップ より:

    エピックでディープな記事でした!SubHがさらに好きになりました。奥深い!

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