PIXAR(ピクサー)は世界最高のコンピューターアニメーションの会社だが、大ヒット作「トイ・ストーリー」を制作するまでは Steve Jobs が金銭的に支えた非常に貧乏な会社だった。ウルトラマイクロマネジメントともいえる Steve Jobs が実質的なアニメーション事業にはほとんど関与しなかった不思議な会社で、これまで PIXAR が華々しく成功するまでの道筋を書いた書籍は少なかった。
PIXAR の CFO だった Lawrence Levy(ローレンス・レビー)による PIXAR 〈ピクサー〉 世界一のアニメーション企業の今まで語られなかったお金の話 は PIXAR が最も苦しく、途方もない事業にチャレンジした時代を経営面(と首脳陣とのコミュニケーション)、対ディズニー戦略など面白い観点で書かれた本だ。
正直、読んでて泣けたよ。
Apple ファン、PIXAR ファンならこれは読むべき本だ。
明確な事業がなく赤字会社だった PIXAR
Steve Jobs が自腹で 5,000万ドル(当時のレートで 60億円)を拠出し赤字会社を支えていたが、当時の PIXAR は「事業」たるものがはっきりしなかった会社だ。PIXAR の前身は 1979年にジョージ・ルーカスが設立した会社だが、ルーカスの離婚問題で現金が必要になったことから、Steve Jobs が 1,000万ドルで買収し、PIXAR をスタートさせた。
当時は PIXAR IMAGE COMPUTER という CG 専用のワークステーションを販売する会社として事業を行なっていた。その後、CG 制作ソフトウェア RenderMan を販売を開始し、赤字のハードウェア事業を売却。この著者である Lawrence Levy が着任した当時は、コマーシャル向けCG作成、ディズニーと契約したトイ・ストーリーの制作、RenderMan の販売事業を行なっており、赤字は Steve Jobs が穴埋めする、という構造だった。
トイ・ストーリーを契機に IPO を迫る Steve Jobs とクリエイティビティのみを重要視する製作陣との板場さみで苦悩する CFO の姿を描いている(世界で最もキツい仕事のひとつだったんだろう)。
Steve Jobs の PIXAR への関わり、ディズニーとの交渉が面白い
当時、PIXAR における Steve Jobs の役回りは、業界の大物であるディズニーとの交渉だった記憶がある。アニメーションの制作面にはほとんど関与せず、ハリウッド界とのハードな交渉をやっていた。トイ・ストーリーの成功後、既存の不利な契約を改定し(何が不利かはきちんと書いていある)、そのためにワーナーの重役と面会する芝居をうったりと、なかなか面白い立ち回りをしていたと思う。
PIXAR、ディズニーと深い関わりを構築することにより、Steve Jobs はコンピューターテクノロジー業界だけでなく、エンターテイメント業界とのパイプを築いていった。Apple iTuens Music を開始できたのは、この PIXAR での経験が生きているそうだ。
あのチャレンジに満ちた時代を正確に記述している本
Creative Selection Apple 創造を生む力 – あの頃の Apple 開発現場の雰囲気がわかる本 でも書いたが、この本は Apple に復帰する直前からの Steve Jobs の言動について書かれた歴史本だ。具体的な内容は読んでもらうとして、Apple を追放されて NeXT もぱっとしない苦しい時代、PIXAR の成功と Apple への帰還、そして闘病生活からこの世を去るまでの期間。正直、泣けましたよ。
ということで、この本は読んでみて欲しい。久しぶりにいい本だった。
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