Apple Silicon 発表から近年の Apple の戦略を振り返る

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WWDC 2020 における最大の目玉は Apple Silicon for Mac だった。Apple Silicon を搭載した Mac がどのようなプロダクトになるのか、興味は尽きない。だが、開発版の macOS Big Sur を使いながら感じるのは「 Mac はこの先、どんな姿になっていくのだろう」という残念ながらワクワクではなく、違和感・不安感だ。

MacOS X のプレビューを触った時はそうではなかった。それは Mac の未来を感じさせるもので、ワクワク感しかなかった。なのになぜ、今回は違和感を感じるんだろう。

おそらく、それは現在の Mac には弟分ともいえるアイツ(iPad OS)があるからだ。

Apple はいつ頃、独自SoC採用を決定したのか

Apple Silicon

確かにここ数年のインテルは自社製品のアップグレードに苦慮している。しかし、今回の WWDC 2020 の内容をみて分かる通り、Apple Silicon へのトランジションは「思いつき」ではない。数年に渡って、ハードウェアの技術的検討、Rosetta 2 などの移行環境の整備、新OSの両プラットフォームへの対応など、周到に準備作業に取り組んできたはずだ。

Intel insider claims it finally lost Apple because Skylake QA ‘was abnormally bad’ | PC Gamer によると、Apple は「SkylakeマイクロアーキテクチャのIntel製CPUの品質が悪いから、AppleはIntelを捨てた」という。

Skylake は 2014年から2015年に登場したマイクロプロセッサだ。当時、Apple が懸命に取り組んでいたプロジェクトとは、そう。iPad Pro だ。

iPad Pro の登場と進化

2015年頃、Apple は A9 世代のプロセッサを作っていて、初代の iPad Pro を発表した頃だ。iPad Pro は低価格化が進むタブレットの新カテゴリ、PC並みの高い性能と表現力を備えるクリエーターデバイスとして登場した。2017年には A10X Fusion を搭載した第2世代の iPad Pro が登場する。当時、Apple は iPad Pro が次世代コンピューティングの柱になり得るのか試行錯誤していたはずだ。

そして、2018年には A12X Bionic を搭載し、大幅に(それこそ、デスクトップ並に)性能を向上させた第3世代の iPad Pro が登場する。Apple は「 iPad Pro はコンピュータの中心となっていく」としたが、一方で、iPad は拡張性と入力性能に劣っており、Apple Pen に対応させたり、Adobe を説得して Photoshop や Lightroom の iPad 版を登場させてきたものの、やはりクリエーターの現場では「補助的に」使われる域を脱せなかった。そして、2020年に Apple は Mac などのノートコンピュータの最大の特長であったキーボードを iPad に対応させる。

これが、我々がみてきた歴史だ。

iPad Pro と並走する Apple Silicon Mac プロジェクト

iPad Pro

しかし、これを Apple Silicon Mac の開発プロジェクトと重ねてみると、ちょっと違って見えてくる。おそらく初代 iPad Pro の発表当時は、iPad を次世代コンピューティングの中心プロダクトとして位置付けて良いのか判断がつきかねている感じだった。数世代にわたる iPad Pro シリーズの開発計画は、プロセッサの高速化と iPad にはできないことを解消するミニマムプラン、そして、高価格帯にはなるが市場に大きく受け入れられれば iPad を日常のコンピューティングデバイスとして成長させるプランがあったのではないか。

だが、Mac にも Aシリーズプロセッサを採用するとなると、より綿密に両製品のポジションを整理しなければならない。iPad か Mac か、ではなく、iPad も Mac も、というプランが必要になった。

2019年の WWDC では、iPad のオペレーションシステムを iOS(iPhone)から独立させ、iPadOS として独自のインターフェイスと機能搭載を図る戦略へと転換する。それは、この時点で Apple は iPad については Mac とインターフェイスやアプリケーションのフィーリングを統合する必要がある と考えていたからだ。iOS/iPadOS のアプリケーションを Mac に移行しやすくする Catalyst も提供した。

Skylake の品質問題で Apple 独自プロセッサを本格的に検討開始したのが 2015年。翌年の 206年には経営的な意思決定を行うフィージビリティ、プロトタイプテストが開始されているはずだ。iPad と Mac の切り分けを「製品ポジション」「開発思想・方針」の観点から判断したがのが、2017年初頭。そして約3年の準備期間を経て、WWDC 2020 で発表した流れとなる感じだろうか。

そう考えると、2017年に iMac Pro が発表されたのがなんか意味深だ。

iPad Pro と Mac の関係はどうなる

Apple Silicon
Face ID と USB-C を搭載した 2018年の iPad Pro、2020年の自社製キーボードをアクセサリーとした iPad Pro 、iPadOS の独立化は、Mac が同一のプロセッサを搭載するだろうことが分かっていながら、まさに並走して開発された。これは、iPad と Mac の位置付けは「既に決着がついており、その方針によって製品開発がなされている」ということを示している。

で、macOS Big Sur だ。新しいユーザインターフェイスは、かなり iPad に寄せている。もちろん、「iPad に寄せるのがいいか、Mac に寄せるのががいいか」という問題ではない。Apple は iPad と Mac のインターフェイスは「近い方がいい」「同一言語で表現するのがいい」と考えている ということだ。

iPad Pro の製品品質と比べ、macOS Big Sur のインターフェイスはまだまだこなれていない。アイコンは写実的なものからイラスト調のものまでバラバラだし、ウィンドウのデザイン設計は使いやすいとはいえない。触媒を意味する Catalyst により iOS/iPadOS から移植されてきたアプリにあわてて合わせた感じがなくもない。

プロセッサは共通化した。開発環境も共通化したし、インターフェイスもほぼ同一の見え方になっている。ではこれからの Mac はどうなっていくのだろうか。

順当にいけば Mac はパソコン、iPad はタブレット。驚きがあるとすると…

順当にいけば、Mac はパソコン。PC 業界の多くのアプリケーションや周辺機器が動作し、圧倒的なパフォーマンスと拡張性でクリエーターやプロフェッショナルのための製品となる。iPad Pro はタブレットの使いやすさをフィーチャーした製品としてローエンドからミドルをカバーする製品になる。

でも、これだけでは面白くない。これではインテルプロセッサでも良かった、となりかねない、巨大な Apple をも突き動かすシナジーメリットがあるはずだ。ワンモアシングだ。

製品ポジションをスペックやプロダクトドメインで切るのではなく、ユーザのライフスタイルで、iPad と Mac がスケーラブルなものとして捉えてみる。

ラインスタイルのフロントエンド、情報のインプット・アウトプットにかかわるシーンでは(扱う情報の量から順に)Apple Watch、Apple Glass、iPhone、iPad が中心となる。これらは主に環境や情報との接点にかかわるモバイル製品で、これらのデバイスは軽量化が進むと同時に Mac の処理速度と遜色なく、センサー類を含め活用される様々なデータを扱うために高機能化が図られる。

Mac は情報処理コアというか、プライベートコンピューティングの心臓部的なものになる。簡単にいえば座ってパカっとあけて使うものとなり、フロントエンドデバイスを Mac に持ち込む(接近/もしくは物理的脱着)と、それが外部ストレージどころか、本体の情報処理環境に組み込まれ、デバイスの差を感じることなくシームレスに作業を継続することができる。また、Mac で処理した情報や作成されたコンテンツもまたシームレスにフロントエンドデバイスにフィードバックされ、これらのデータを服のようにまとうことができる。

ってな感じだろうか。ここらへんのイメージが具体的・立体的に読めないのが、Big Sur を使っていて感じる違和感・不安感の源なんだろう。それをクリアにする第一歩は年末までには現れるはずだ。

コメント

  1. 波形研究所 所長 波形研究所 所長 より:

    端末は変わっても情報処理環境は同一みたいな。

  2. 舟橋 より:

    これって、ソフト/サービス的なPowerBook Duoの再来ってわけね。

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