Moog のモノフォニック・ベース・シンセサイザー Moog MINITAUR のレビュー、後編。前回「暖かいフィルターが魅力。アナログシンセサイザー Moog Minitaur レビュー(本体・シンセサイザー部の解説編)」では Moog Minitaur の概要、シンセサイザー部の解説と、簡単なムーグベース音の音作りを説明した。
今回は専用のエディタ・ライブラリアンアプリケーションの Minitaur Editor を使った Minitaur の管理、音作りをみていく。
Minitaur Editor とは
Minitaur Editor 概要
前回紹介した通り、Minitaur は MIDI CC でのみコントロールできるパラメータが数多くある。MIDI CC をチャートをみながらデータ転送するのは気が遠くなるのだが、ちゃんと専用のアプリケーションが提供されている。それが、Minitaur Editor だ。
Minitaur の真価は Minitaur Editor を使うことで発揮される。豊富に用意されている音色プリセットを使ったり、自分が作った音色・パネル設定を SAVE し、以後の制作に活用することができる。Minitaur のポートや MIDI 詳細設定、CV のマッピングなど、到底パネルからは行えない設定・操作をしっかり行うことができる。
Minitaur Editor はスタンドアローンで動作するアプリケーションのほか、VST2 & VST3 / AU / RTAS / AAX のプラグインバージョン Minitaur Plugin が提供されているで、多くの DAW ワークフローに組み込めると思う。
Minitaur と Mac の接続についてだが、 Minitaur の USB ポートは MIDI 信号のみを転送し、オーディオを扱うことはできない。よって、MIDI は USB、オーディオはオーディオインターフェイス経由で接続することになる( BEHRINGER Model D なども一緒だね)。
Minitaur はハードウェアパネル上の操作も MIDI CC として出力するので、ノブを動かせば、その動きも DAW に送ることができる。
Minitaur Editor の入手法
この Minitaur Editor は無償ではあるが、フリーにダウンロードできるものではない。本家 moogmusic.com で製品を登録(シリアルナンバーを登録)することで、最新のファームウェアなどとあわせてダウンロードができるようになる。
ヤフオクやメルカリで中古品を入手する人はとくに気を付けて欲しい。前のオーナーが MIDI Ch を 15 あたりに設定していた場合、 Minitaur Editor がないと手も足も(音も)出ない。Moog の製品登録は「製品保証」とも関連してくるので注意が必要。例えば、前オーナーが製品シリアルを登録(当然していると思う)していると、製品登録も出来ないかもしれない。
Moog のサポートは試したことがないが、「現在は自分がオーナーだ」ということをサポートとやりとりすれば登録させてくれることが多い(シリアルの写真をメールしてくれ、というケースが多いかな)。不安な人は事前に Moog に問い合わせてみるといいと思う。
Minitaur Editor – プリセットの管理
Minitaur Editor の機能としては、「プリセットの管理」「Minitaur の音色エディット」「Minitaur の設定管理」という 3つの機能がある。Minitaur の設定管理は Minitaur を所有している人にしか関係ないと思うので、プリセット管理と音色のエディットを説明する。
Minitaur Editor をインストールすると、Factory Presets として、かなりの分量のプリセットも同時にインストールされる。PRESET BROWSER からおもいおもいにプリセットを選択するもよし、PRESET MANAGER を開いてプリセットを選んだり、オリジナルのサウンドができたら SAVE するもよし。SHARE PRESETS というボタンを押せば、友人とメールで作ったプリセットをメールできたりもする。
プリセットを選ぶと即時に Minitaur に送信されるが、ハードウェアの Minitaur のノブが動くわけではない。なので、Minitaur のパネルのノブと実際のパラメータが合わないことになる。せっかくのアナログシンセサイザーなんだから、ぜひ自分の手でノブの位置を確認し、少し動かしたりして音が作られていく過程を楽しんで欲しい。
Minitaur Editor 3つのエディットモード
Minitaur Editor のエディット画面は 3種類ある。
- PANEL: Minitaur のパネルと同じレイアウト
- UNDER THE HOOD: Minitaur のパネルにはないコントロール機能が集約されている
- EXTENDED: PANEL + UNDER THE HOOD、Minitaur の全機能を 1つの画面に集約している
EXTENDED はかなり重厚なシンセサイザーのパネルのようだよね。これがあの可愛い、Minitaur のシンセサイザー部の真の姿なのだよ。
個人的には PANEL と UNDER THE HOOD を使う。これは Minitaur のパネルに慣れているのであって( Minitaur のパネル配置は無駄がなく、とても使いやすくまとめられているから)、鼻歌まじりにパネルをいじって、Editor でしかアクセスできない機能(後述の NOTE SYNC や LFO SHAPE)を使う時だけ、UNDER THE HOOD を使う感じがオススメです。
Minitaur Editor によるエディット&音作り
PANEL モードでの音作りは前回の記事で紹介した内容になるので、今回は Minitaur Editor からのみアクセスできる機能を紹介していこう。
オシレータ・パートは VCO 2 の位相シンクに注目
OSCILLATORS(VCOセクション)には VCO 2 BEAT FREQ、HARD SYNC、NOTE SYNC がある。主に出音のパンチを揃える機能。VCO 2 BEAT FREQ は VCO 2 の周波数オフセットを調整、SYNC をオンにすると発音タイミングによる位相がなくなり、粒が揃ったサウンドになる。
マニュアルには「パンチのあるベース・サウンドが欲しい時には NOTE SYNC 機能をオンにしてみてください。フレーズを演奏した時に各音のアタックの部分のオシレーター波形の位相がそろい、迫力が増します。」と書いてある。
テキストだけでと伝わらないので簡単な動画を作ってみたよ。
Moog Minitaur の隠された機能、Minitaur Editor からのみアクセスできる NOTE SYNC / HARD SYNC を解説したビデオです。#Moog #MoogMinitaur #シンセサイザー #アナログシンセサイザー #DTM #DTMer #WAVEFORMLAB #波形研究所 pic.twitter.com/01eYlYpLpC
— 波形研究所 気になるニュース😃 (@waveformlab) 2020年8月8日
NOTE/HARD SYNC でかなり音のパンチが変わるのが分かると思う。メロディやリードでは素の音色の方が面白みがあるが、位相によって音量もかなり変わってしまうので、ベースパートを演奏させる時には NOTE SYNC はオンにした方が扱いやすいはずだ。
NOTE SYNC はノートのトリガーを合わせてくれる(音のツブが揃う)。HARD SYNC は VCO 1 の周波数の周期に VCO 2 の波形の頭を合わせてくれる。FILTER CUTOFF をいじるような操作は HARD SYNC の方が面白い音が出ると思う。
音量だけじゃない – ベロシティに対応した音作りができる
FILTER では KB TRACKING と VEL SENS を調整できる。KB TRACKING はキーボードの弾く位置によるフィルタのかかり具合、音の明るさを調整するもの。シンセサイザーにおける KB TRACK は意外にポピュラーな機能。音のピッチが上がると倍音も一緒にピッチがあがるので、フィルターに通した時にピッチが上がると音がこもった感じになる。KB TRACK はピッチにあわせてカットオフフリケンシーの上昇率をコントロールするもので、0 で変化なし、100% でピッチに対し半分、200% でピッチに対し 2/3 になるんだと思う。
VEL SENS は VCA にある VEL SENS と合わせて説明する。キーボードインプットのベロシティによって、FILTER を開いたり、音量を大きくしたりするためのもの。これにより、強く引くとアタックが明るく大きい音、なんて作りができるようになる。
Minitaur には外部オーディオ端子もある、外部のシンセサイザーにムーグのフィルターをかけられる!
MIX にある EXT INPUT は外部オーディオのインプットレベルを調節する。Minitaur を触っていて思うのだが、フィルターや LFO の出来が半端なく良い。なら、外部のシンセをオーディオインプットから入力して、VCO 1/2 を MIX でオフってしまえば、Moog Minitaur のフィルターを外部のシンセサイザーにかけることができる!後述の Twitter ではフィルターが残念な Modal SKULPT のサウンドを Minitaur に取り込んでいる。凄くイイです。
ENVELOPES の EG TRIGGER MODE はエンベロープのかかるルールを設定するもの。レガート、つまり音を続けて違うキーを弾いた際に、LEGATO ON ではエンベロープはトリガーし直すことなくレガートに演奏される。LEGATO OFF では打鍵に応じてエンベロープが再度トリガーされる。EG RESET はエンベロープサイクルを繰り返す。EG RESET って何のためにあるのか調べてみたら、フィルタモジュレーションの代替にするためのものらしい。MOD の LFO SHAPE がたくさんあるから、いるのかな?って感じがするが。
次に MOD(モジュレーション)。LFO SHAPE はズキュンときちゃうよ。モジュレーションの繰り返すパターンを選択できる。これがないと LFO 使いにくいよね!やっぱりあった。しかも ランダム S&H を含む 6種もある。S&H がある!これで EL&P のムニャムニャムニャララみたいなサウンドを作ることができるぞ。
Moog Minitaur と Modal Electronics SKULPT synthesiser のコラボ。SKULPT は卓上 MIDI キーボードとしても使ってます。SKULPT のオーディオを Minitaur にルーティング、LFO S&H かけてます。#Moog #MoogMinitaur #シンセサイザー #アナログシンセサイザー #DTM #DTMer #WAVEFORMLAB #波形研究所 pic.twitter.com/ThlvMUgTdU
— 波形研究所 気になるニュース😃 (@waveformlab) 2020年8月8日
LFO をかける VCO を選択する VCO 2 ONLY、キーボードの打鍵により LFO サイクルをリトリガーするかを指定する KEY TRIGGER、LFO タイミングを MIDI クロックと同期させる MIDI SYNC、MIDI SYNC させる時の LFO サイクルの大きさを指定する LFO CLOCK DIVIDER がある。1Bar だと1小節で LFO サイクルが1周する、ということ。
キーボードプレイを斬新なものにするマニアックな機能
最後にキーボードコントロール系をまとめて。KB RESPONSE は実にマニアックな設定だ。何のために使うんだろう。ドを押さえたまま隣の鍵盤を打鍵してトリルするケースをイメージして欲しい。通常の LAST NOTE の場合、ドを押さえたままレを押すと、ド→レ、となるよね。そしてレを離すとドが発音される。つまり、ドを押したままレを打鍵すると ドレドレドレ… となる。
HIGH NOTE にすると高い音が優先される。ドを押しっぱなしのレ打鍵でドレドレはできるが、ドを押しっぱなしの1つ下のシを打鍵してもドシドシはできない(シはドより低いので発音されない)。LOW NOTE は逆で低い音が優先されるから、ドシドシはできるけどドレドレができない。和音を弾いた時にボトムのみやトップのみを発音できる、ということなのかな。あー、これなら使いようあるね。
マニアックな設定もあと少し。こっちは技として使えそう。PITCH BEND では UP/DOWN 別々にレンジを設定できるのだ。
UP した時には3度、DOWN した時には 24度なんてことができる。GLIDE は LCR:グライド変化率が一定、LCT:グライド時間が一定、EXP:Moog Taurus に近い動作で、ターゲットに近づくとグライドレートが遅くなるモード(これ、あんまり分からない笑)。LEGATO ボタンはレガートに弾いた時だけにグライドがかかる。GLIDE ボタンを点けたり消したりする必要がなくなるね。
これで、UNDER THE HOOD 機能の説明は完了。Web でここまで細かい説明はないだろう(笑)。
Minitaur Editor を使うと Minitaur が全く違った楽器にみえてくる
以上、かなり詳細に Moog Minitaur をみてきたが欲しくなってきた?(笑)。
Minitaur は本当に面白い楽器だし、楽器としての幅も広いと思う。競合としては Moog Mother 32 や Subharmonicon あたりと悩むんだと思うけど、価格は倍近く違うし、モノフォニックにねー 8万円って(苦笑)。まー、これ以上なく音はいいんだろうけど。
シンセサイザーの発展とともに生きてきた世代としては、やはりダイヤルをまわしたり難しそうなパッチを接続することが、そのサウンド以上に楽しいのであって、やはりソフトウェア音源とは違う世界があるんだと思います。
Minitaur はコンパクトだけど、多機能で、かつ非常に繊細なシンセです。ノブをほんの少し傾けるだけで音の揺らぎが大きく変わります。その面白さ・愛らしさが伝わればなにより。ということで、Moog Minitaur レビューでしたー。
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