モジュラーシンセサイザー探求、です。非常に長いスパンで、少しずつ少しずつ機器を揃えているモジュラーシンセサイザー。数少ない手持ちのモジュラーについて理解を深める旅。初回は Mutable Instruments Marbles について考えていこうと思う。
Mutable Instruments Marbles – random sampleとは
「ビー玉」という名前が付けられたモジュラー、Mutable Instruments Marbles – random sampler はセミモジュラーを除くと、おそらく 2台目か 3台目に購入したモジュールだ。穏やかな木漏れ日の動きや風鈴のように、ゆったりとしたランダムなシーケンスを奏でるセットによく登場するモジュラーシンセサイザーだ。
モジュラー・シンセサイザーはシンセサイザーを機能単位でバラバラにしたもの、と考えると理解がしやすいのだが、この Marbles のようなモジュラーはちょっと分かりにくい。他のモジュールをコントロールするための GATE と CV を出力するものなので、シンセサイザーを鳴らすためのタイミングとピッチを出力するもの と考えればいいかもしれない。
シーケンサーにあたるといえば、そうでもない。なぜなら Marbles が出力する GATE / CV はランダムだからだ。CLOCK のように周期的な GATE / TRIGGER を出すわけでもないし、LFO や ENVELOPE のように周期的な CV を出力するものでもない。
Marbles はランダムな GATE / CV を出力するが、全くのランダムという訳ではなく、ある一定の周期性・反復性を持たせることができる。「ランダムに聴こえるけど、なんとなく繰り返してるよね、音程に法則性があるよね」という感じに出力する。そういう、ゆるやかなランダムな出力をサンプラーのごとく、時間的に切り取って再生することができるから、ランダム・サンプラーという名前が付いているんだと思う。
ではなぜ、Marble を導入したのか。
モジュラーシンセサイザーに何を求めるかは人それぞれに正解があると思うが、自分の場合は「機械が出力する音を純粋に楽しむ」ためだ。
パラメータの動きを設計して、パッチして個別にコントロールしなければならないモジュラーシンセサイザーで、音楽・楽曲を創るのは悪夢(膨大で大変な作業)だ。モジュラー初心者としては「あれがああなって、ああ、こうなってるのかー」と、信号の流れや波形を理解したい、実感したい。
キーボードだと自分で弾かなければならないし、シーケンサーは自分が入力しなければならない。そこには「音楽の完成型」がちらつく。目的の姿に近づけるために統制(コントロール)しようとする。自分の予算と力量ではストレスが溜まって仕方がない。
ならば「勝手に鳴ってるもの」を理解する方が楽しめる。
Mutable Instruments Marbles を購入時に Marbles の機能をしっかり把握してたとはいえないが、モジュラーを買い揃える順番としては間違っていなかったと思う。
Mutable Instruments Marbles 概要
Marbles は大きく分けると左側が GATE 、右側が CV をデザインする構成になっている。GATE が 3系統、CV が4系統(3+1)出力することができる。そして中央に、DEJA VU(デジャブな VU 出力ね)というランダム周期性・反復性をコントローラーが配置されている。詳細の説明はマニュアルを探索して欲しいのだが、概略はこうだ。
t:ランダム・ゲート・ジェネレーター
- 入力は CLOCK のみ、それぞれのノブ操作の入力が 3つ
- RATE はクロックのスピード調整、CLOCK に入力がある場合はクロックをディバイド(除算) / マルチプライ(乗算)する
- BIAS は GATE 出力 t1-t3 の偏りを調整
- JITTER はクロックのテンポ転び方を調整
- モードボタンで GATE 出力のモード(コイントス、ディバイド/マルチプライ、キック・スネア)を選択
- 出力は真ん中の t2 はジッタークロックのメイン出力、t1 と t3 はモードボタンで指定したランダム信号を出力する
- 中央に配置された Y 出力はフルレンジ(-5 – +5V)の CV を出力する。
- Y 出力は DEJA VU の影響を受けない
x:ランダム・ボルテージ・ジェネレーター
- 入力は CLOCK のみ、それぞれのノブ操作の入力が 3つ
- SPREAD は CV の電圧分布を調整、左振り切りで1つの音程、右に回すと音程幅が広がる
- BIAS は x1 と x3 の出力ランダムさを調整
- STEPS はステップ・クォンタイザー、右にまわすと CV 出力の音階が少なく単純に、左にまわすとレガートに変化
- STEPS のクオンタイズスケールは選択できる
- モードボタンは、x1 – x3 のランダム度をパターンを指定
- 出力 x1-x3 はランダム信号を出力する
DEJA VU コントロール
- DEJA VU はランダムの内容さを調整、右側にまわすとランダム出力を出力履歴から選択、左側にまわすと新しくランダム出力を生成
- LENGTH は再生するステップ数を指定する
- T/Xボタンは DEJA VU 設定が有効かどうかをオンオフする
なお、Marbles を理解するために必見の記事も紹介しておく。文頭の図は HATAKEN 氏の記事から引用している。日本語で読めるモジュラーシンセサイザーの専門家による連載記事は貴重、ぜひ目を通したい。
Mutable Instruments Marbles を使う
Mutable Instruments は既に廃業しており、製品は市場に出回っているものしかない。一方で、Mutable Instruments はモジュラーの設計やプログラムを公開していたので、数社からクローンが販売されている。Michgan Synth Works がクローン製品では有名で、お世話になっている CLOCKFACE MODULAR さんが扱っている。Marbles は Pachinko という製品がリリースされており、本家に比べて 12HP とコンパクトだ。値段も良心的。
また、無料で使えるバーチャル・モジュラーシンセサイザー環境である VCV Rack 2 にも Marbles がある。 VCV Rack 2 は、モジュラーシンセ界隈で定番ソフトで、配線する前にモジュラーを試すには最適。興味がある人は導入して損はない、いや得しかないソフトだと思うのでオススメしておく。
Marbles は各出力が何を出力しているのかが直観的に分からない。なので KORG NTS-2 や MDRDAX DATA のようなオシロスコープを挟むと電圧変化が可視化できて分かりやすくなるだろう。
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