Ableton が Live 11.3 のパブリックベータをリリースした。目玉は、収録インストゥルメントの MPE 対応と、新しいシンセサイザー Drift だ。サブトラクティブ・シンセサイザー Drift を少し触ってみたので、Ableton Live のインスツルメント・エフェクトの話とともに紹介したく思う。
僕が Ableton Live を使うワケ
自分が Ableton Live をメインの DAW にするようになった理由はずばり「収録されているインストゥルメントやエフェクトが実に多様だから」だ。
Ableton Live は、お馴染み縦型のセッションビューと、ソングアレンジのためのアレンジメントビューという2つのビューを持つ DAW だ。この2つのビューと、オーディオデータをテンポに自動的に同期させるオーディオエンジン(現在では Warp という)は Ableton Lvie の Ver.1 登場の頃からの特徴だ。
しかし、現在の Ableton Live は、非常に多くのインストゥルメントやエフェクトをビルトインしているのが最大の特徴となっている。開発環境の Max を取り込んでおり、Max for Live(M4L)という多種多様な実験的なインストゥルメントやエフェクトを楽しむことができる。モジュラーシンセサイザーのように、機能ごとにユニークな M4L デバイスが多く存在し、正直、これで遊んでいるだけでも相当楽しめる。
音楽制作においては、「通常の DAW では個別にプラグインで揃えるような音源やエフェクトを Live を買うだけで最初から使える」という分かりやすいメリットとなるのだが、個人的に大切なのは「標準搭載」であること。
たくさんのプラグインを使っていると、プラグイン提供の継続性や維持費が問題になってくる。なので、なるべく数少ない精鋭プラグインを集中的に使っていきたい。
Ableton Live Suite だとなんと 17 のインストゥルメント、60 のオーディオエフェクト、16 の MIDI エフェクトが付属する。
例えばインストゥルメントだと、Analog / Bass / Collision や Tension(物理モデリング) / Operator(FM音源)/ Wavetable などのシンセサイザー、Simpler や Sampler といったサンプラーなどが用意されている(他にも DrumSynths や専用のキーボード音源もある)。これらが結構、優秀で、Ableton Live ネイティブな話なので、あまり話題にしないが、実は結構使っている。
コンパクト サブトラクティブ シンセサイザー Drift
そこに新しいシンセサイザー、Drift が登場した。このシンセはすべての Live のエディション(Suite / Standard / Intro)で使えるインストゥルメントとなるようだ。リリースノートでは、a compact subtractive synthesizer と表現されている。要は Moog Model D や Roland SH などと同様の、減算方式のシンセサイザーだということだ。
スペック的には、2 OSC + Noise 、2 LPF + HPF 、2 ADSR Envelope、LFO + MOD という非常に分かりやすい構成だ。OSC で波形をセッティングして、フィルターで削って音作りをする減算型のシンセサイザー(東海岸派)に慣れている人なら、説明書がなくても、すぐにエディットできると思う。
Ableton Live 11.3b の新シンセサイザー、Drift 。
なんか超アナログシンセ的な UI 。#ableton #abletonlive pic.twitter.com/0M123z8czO— 波形研究所 気になるニュース🇺🇦 (@waveformlab) 2023年4月8日
実際に触ってみて面白いと思うところをあげる。
まず、オシレータの波形が実にバラエティに富んでいる。Osc 1 は 7種類、Osc 2 は 5種類の波形を搭載している。SUPER SAW こそないが、Osc 1 のシェイパーが非常によく機能してくれて、倍音フィードバックのような、かなりワイルドな音作りができる。
Osc 1 + Osc 2 + Noise のオシレータの次にくるのが MIXER というのも Moog のようで分かりやすい(Mini Moog – Model D の解説 )。ローパス・フィルターは Type I と II(12dB or 24dB/Oct)が用意されているのも Moog と同じ。ハイパスもある。フィルターは1系統。
モードは Poly / Mono / Stereo / Unison の 4つのモードがある。Mono / Stereo / Unison にはパラメータがあり、Unison の重ねる音の幅などをコントロールできる。薄目のユニゾンからぶ厚めのユニゾンまでスライダーで調節できる。Mono のパラメータはどんな処理をしているのか、オクターブのサウンドが重なるようである。
そして、アナログシンセ特有のゆらぎをコントロールする Drift というパラメータがある。Drift は完全なデジタルオシレータなので、同じ波形で波形同期をオンにすると、OSC を 2系統重ねても、ただ音量がアップするだけで音色は変わらない。何回トリガーをかけても同じ音がする。しかし、この Drift のパラメータをあげると、まぁ、不安定になる。ピッチもゆらぐし、トリガーのたびに波形の再生がテキトーに変化する。が、積極的な音作りのパラメータというより、アナログ度をコントロールする機能のように思う。
Drift 最大の特徴はパッチアサインが多様であるところ。OSC の Shape やピッチ、モジュレーションやフィルターの Freq に様々なパッチアサインができる。 2つの ADSR Envelope / LFO だけでなく、Key、Velocity、Modwheel、Pressure、Slide をアサインできる(しかも、プラス・マイナス双方にセットできる)。鍵盤をアフタータッチでおしこんだら Shape が加算なんてことが簡単にできる。
そして、Live のインストゥルメントなので、Drift だけでなく、接続したエフェクトのパラメータまで集約したマクロを組める。よく使うパラメータ、例えば、フィルターのフリクエンシーとレゾナンス、ユニゾンのパラメータに、フェイザーのオンオフにリバーブのミックス、といった感じに、操作する各ノブをマクロという形で集約できるのだ。このマクロはライブで Live が使われる最大の特徴だと思う。
Drift には 11.3.1b1 で 114 種類のプリセットが収録されている。いわゆるシンセサイザーのサウンドプリセットだが、Ableton Live のエフェクトも同時に使った即戦力となるプリセットも多い。気になる音をプリセット・オーディションで選んで、簡単にエディット、というように初心者でも手軽に使えると思う。
Analog vs Drift
Ableton Live Suite では Analog というシンセサイザーが使える。これは 2系統の Osc を持つ、フィルターやアンプまでデュアル構成のアナログシンセサイザーだ。解説によると、Applied Acoustics Systems – AAS と共同開発したアナログ回路をフィジカルモデリングしたシンセサイザーで、これはこれで面白いシンセサイザーだ。
おそらく、AAS のロイヤリティの問題から Suite のみのオプションになった経緯があって、出荷本数に関係なく全エディションで使える Ableton 謹製のアナログシンセサイザーインストゥルメントを用意する必要があったのかもしれない(邪推)。
こっちはこっちで風合いのあるシンセなんだけどね。これらのシンセサイザーをハードウェアで再現すると…高くなるんだろうな。
コメント
Operator って 4オペでしたっけ。FM音源は FM8ばかりに目が行ってました。
最近は YAMAHA DX シリーズの syx をそのまま読み込める FMシンセが出てきていて、ついこの前調べた YAMAHA MODX も TX816 をしっかり読み込めたり、過去の資産をそのまま使えるのって魅力的。Live で対応すると魅力あがりますよね。
Introから付属するシンセDriftは魅力的で良いですよね。
VitalやSURGE XTを知っている人には、その魅力は半減するかも知れないですけど。
最近、iceGear InstrumentsのiOSシンセアプリNambuがAppleシリコンMac対応になったり、
Steinberg HALion7にYAMAHA由来のFMシンセを付属させたり、Operatorの影が薄くなってしまっているので、
4オペレーターのFMシンセOperatorはStandardから付属するシンセにしてもらって、
Suiteには、Operatorを新たに6オペレーターのFMシンセにしたものを付属してもらえれば、ありがたいんですけどね。