インサイドアップル/アダム・ラシンスキー

投稿日: カテゴリー: BOOK, COMPUTER, TALK

インサイドアップル
正直、アップル関係の本は腐るほど読んでる。 Steve Jobs が亡くなった後、雨後のタケノコのように出版された「アップル本」も結構、読んでる。しかしこれだけ読んでると、新しい発見はほとんどない。今まで読んだ本の再構成が大半だ。ドラえもんをいろんな軸で再編集したバージョンが出ているが、あんな感じ。「やれやれ、知ってるよ」という感じ。

しかし、この本は違った。はじめて知ることが非常に多い本だった。しかも、知りたくてもなかなか出ない情報が盛りだくさん。この類いの本は今までありそうでなかった。「インサイド・アップル/アダム・ラシンスキーAmazon)」、つまりは Apple の「経営スタイル」にフォーカスした本だ。

フォーチュンの記者である著者だけがこのテーマに目をつけた訳ではないだろう。瀕死の重傷の状態からいかに復活したのか。巨大な会社になってもなお革新を続けていられる会社の経営とは、どんなものなのか。 Apple の製品はどのように生まれ、どのように作られていくのか。興味は尽きない。

Appleファンのみならず、ビジネスマンなら「 Apple がどのように経営されているのか」興味があるはずだ。組織はどうなっているのか(フラットというが、何階層なのか)。マネジメントは日々どのように行われているのか。製品の企画と開発のジャッジはどの時点でどのように行われるのか。資材調達・製品開発・デザイン・マーケティング・販売の各部門はどのように意見を調整するのか(しないのか)。

が実際、このテーマを扱った本は実に少ない。 Apple は自社の経営に関する情報を自社の新製品のそれ以上に統制しているからだ。

Apple を辞めたジョン・ルビンスタインも同様のことをインタビューで聞かれ「それは Apple が最も知られたくない事柄」と説明していた。「Apple が最も他社に知られたくないのは Apple がどのように運営されているか」なのだ。

著者は果敢にこのテーマに取り組んだ。内容には触れずにおくが、情報が少ない中、よく頑張ったと思う。多くの元社員にインタビューすることで得た「情報」がふんだんに盛り込まれ、中盤までは「新発見」が続く(後半はダレた感じが否めないが)。また、経営チームの人柄もしっかり描かれている。多くのビジネスマンに推薦できる本だ。

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この本には記載されていないが、こんな話がある。「 Apple には部門ごとの財務諸表がない」、だ。通常の企業では部門ごとの損益計算書が作られる。これにより部門のパフォーマンスをつかむことが出来る。これがないと、当該部門が儲かっているのか、社員が適正な数で運営されているかが分からない。いわゆる部門指標だ。

部門決算は良い面もあるが、悪い面もある。悪い面の代表はセクショナリズム、そして経営に正しい情報が伝達されなくなることだ。例えば中期計画を作る時を想像すると良い。経営チームは全事業部に「中期計画を作れ」と号令を出す。事業部の部門長は「我が部門は売上も収益力も落ちているので解散します」とか「業界構造的にもダメなので諦めます」なんて計画は立てられない。そう思っていても自部門の社員が路頭に迷うようなことは書けない。

結果、どこの事業部も「精一杯、頑張ります」という計画書になる。儲かっている部門も、これから儲かる部門も、ダメな部門も、もうすぐダメになる部門も大して見栄えが変わらない「頑張ります中期計画」が出てくることになる。

Apple は(仕様により相当細かい)製品ごと財務諸表はあっても、部門ごとの財務諸表はないそうだ(少なくとも1年前までは)。おそらく昔はあったんだろうが(ないとリストラすら出来ない)、Steve Jobs が経営する中で、経営の中で基本とされる財務資料からは存在感が薄れていったんだろう。

こんな話の片鱗からも、あの会社の「普通と違うところとその強み」が分かる。

ちなみにこの話、個人的には「だから部門財務諸表は撤廃すべきだ」とは思わない。 Apple は世界選りすぐりの優秀な社員が全力で働いている会社だ。この本からもいかに社員が集中して働いているかが分かる。世界で最も優秀な社員が世界で最も優秀なマネジメントのもと集中して働いているのだ。そんな社員の生産性を落としたり、惑わすような財務諸表は必要ないだろう。

しかし自分達は違う。優秀な社員もいれば、そうじゃない社員もいる。マネジメントだって凸凹してるだろう。少ない商品に集中することも出来ず、多くの製品や問題を抱えている。モチベーションも人により時により様々だ。だから「指標」が必要なのだ。恥ずかしがる必要はないが、なんか、切ないね(笑)。

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