追悼 Steve Jobs(4)

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新生 Apple の強さ
iBook2000年以降、多くのコンピュータメーカーやディベロッパがイノベーションを生み出せず消えていったが、Apple は順調に IT 業界を疾走し続けた。 Apple にも PowerMac G4 Cube のような商業的失敗作はあったが、凡庸で退屈なプロダクトはほとんどなくなった。iBook、 AirMac、XServe、 PowerMac G5、 Apple Display、そして首振り iMac …、みなはじめて見た時は驚いたもんだ。「なんじゃ、これは???」と思ったプロダクトは記憶の中では、(ユーザには悪いが)縦型からデザインを変更して不細工になった iPod nano くらい。

PowerMac G4 Cube財務的には復帰どころか絶好調となった Apple 。そろそろ飛び道具的なデバイスが出てもいい時期だった。 Steve Jobs の指揮の元、Newton がそのままの形で復活することは絶対にないと思ったが、PDA 的なものは出して欲しかった。 Mac は素晴らしかったが携帯するには大き過ぎた。もっと小柄で、いつでもそばにあって使える役リンゴマークのデバイスが欲しかった。 Apple が Palm を買収しようと検討したらしいが、「うーん、違うんだけど、この際いいや」と思ったもんだ。しかし、PDA は登場しなかった。「顧客が望んでいるのは分かっていても提供しない」は製品戦略としてはイカれてる。

It's True - Intel TransitionSteve のキーノートはネットでストリーミングされるようになり、そのダイナミックショーぶりは毎回楽しみだったが、2005年の WWDC の発表には心底驚いた。 Mac OS X が Intel ベースに移植され、Mac プラットフォームはインテルプロセッサベースになった。もともとインテルプロセッサで動作していた NeXT OPENSTEP のことだ、技術面では驚くことでもなかった。 PowerPC G5 は強力だったがポータブルマシン用のチップ提供に不安があったので戦略面でも驚く内容ではない。

そう、何よりも「インテルになんか移行しない。出来るけど、絶対やらない」と明言していた Steve が、いけしゃーしゃーと、「インテルに移行する、ずっと機会を待ってた」とぶちあげたのに驚いたのだ。本当に開いた口が塞がらないとはこのことだった。あの男、平気で嘘をつく…。

しかし彼の説明を聞くと論理的で自然な流れに感じられる。現実歪曲空間とはいったものだが、彼と面と向かって話しているなら異次元空間に巻き込まれるかもしれないが、企業戦略となるとそうもいかない。いくらでも客観的に検証が可能だ。

秘匿性や驚きという市場反応を戦略とする Apple だからサプライズとして仕込んだのは気にならない。では、一回でも Steve が「ノー」と言ったものを社内で再び提言することはできたのか。インテルプロセッサも電話機事業も、タブレットも、みな一回は明確に「ノー、あれはやらない」と言い放っている。社内で恐怖政治を敷く Steve の姿勢に関する噂が本当ならば、これらのプロジェクトは生まれるはずがないのだ。

Steve は案外、真面目に社内からあがっている企画を検討しているのではないか、そう思う。

私は、Apple を支える本当の強さは Steve のディシジョンとそのユニークさではなく、組織的意思決定プロセスだと思っている。 Apple の組織的意思決定プロセスは全く漏れてくることなく、秘密のベールに包まれている。 Apple はどうやってプロダクトを企画するのか。技術部門とマーケティング部門はどのように議論してスペックを決めるのか、どちらがイニシアティブを握るのか。顧客の声はいつどのようにフィードバックされるのか。出荷スペックと台数計画の承認はどのレベルのエグゼクティブがゴーを出すのか。それはいつの時点なのか。コンティジェンシープランはどの程度検討されるのか。

Steve Jobs の神の一声で社員が動き、ヒット作を連発するなんて単純な話ではない。IT ビジネスは宗教ではない。 Steve が復帰する直前の Apple は経営組織としては本当にグダグダだった。今の Apple を作ったのは Steve だ。昔の Apple の社風を考えたら、これはまさに「偉業」だ。

さよなら、Steve
iPhone 4SApple は2007年、iPhone を発表する。今から約5年ほど前のことだ。日本で iPhone が発売されたのは2008年7月だが、最初から iPhone はぶっとんだプロダクトだった。マルチタッチという操作性、GPS の統合、アプリケーションの UI …。スマートフォンの完成度の点で、競合製品は全く市場になかった。

2010年、iPad が発表される。ディスプレイは 9.7インチ、243 × 190 × 13.4mm 。システム手帳のように使うには大きすぎる。リビングでくつろぎながら操作するにはいいが、ビジネス手帳として使うにはオーバーサイズだ。 Steve は「7インチは出さない」と言っていた。さて、どうなるのか。

iPhone 4Sそして最新の iPhone 4S には Siri というインテリジェンスパーソナルアシスタント機能が盛り込まれている。 Newton インテリジェンスを彷彿させるこの音声ベースエージェント技術は Apple オリジナルのものではないが、 Steve はこの機能を取り込むことにどんな未来を描いていたのだろうか。

さかのぼること13年前、Steve は Newton のコンセプト、Newton テクノロジーが描く未来を丁寧に検証したのだろうか。その時の Steve の Newton の評価はどうだったのだろうか。もし、彼があの時に何かを感じて、13年間機会をうかがい、そしてこの最新モデルに影響を与えているとすれば、彼の洞察と執念に恐ろしささえ感じてしまう。

彼の遺作となった iPhone 4S を目前に私は思う。

「Newton を葬り去ったのは Steve だけど、最後の最後に iPhone 4S Siri で Newton のコンセプトを再生してくれたのかい。うん、この子、日本語が分からないところもそっくりだよ。」

あの Newton に感じたドキドキ、そして Newton が果たせなかった未来に再び触れられるのであれば、これほどエキサイティングなことはない。

死してなお、コアファンの「読み」のはるか先を行く Steve Jobs 。あなたは insanely great を実践した。さよなら、Steve。



Newton and iPhone

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