Roland のコンパクトシンセサイザー、AIRA Compact S-1 Tweak Synth のレビュー。AIRA Compact は T-8 に続いて2台目。Roland SH-101 を再現したシンセサイザーとしては Roland Boutique SH-01A を持っているんだけど、あのコンパクトな筐体でどこまで SH-101 の楽しさを再現しているのか買ってみた、とういうところ。
結論としては、「もー、S-1 でいいんじゃない。エフェクターも D-MOTION も搭載されているし(笑)」という感じ。ローランドの大判振る舞いシンセサイザー、AIRA Compact S-1 の使ってみてレビューです。
AIRA Compact S-1 Tweak Synth
Tweak Synth というのは SH-101 特有のスライダー操作ではなく、ツマミをひねるので、という意味だろうか。それとも、イジって楽しいシンセサイザーという意味だろうか。
AIRA Compact T-8 は操作系がシンプルすぎて、「必要な設定は SHIFT + MENU で選択してくれよ」という作りだったのだが、この S-1 はしっかり「イジって楽しいシンセサイザー」だ。あの小さな筐体に SH-101 とエフェクトと 2オクターブの鍵盤を入れ込んだからスゴい。
仕様は SH-101 の音源部を抜き出して4倍にして、最近の Roland SH-4d などのシンセで搭載された OSC DRAW や OSC CHOP 、ライザー(ダウナー)を加え、AIRA Compact のモーションレコーディングシーケンサー、コーラス・ディレイ・リバーブを付け加えたものー。また、2オクターブのキーボード(とホールドボタン)、AIRA Compact 初となる D-MOTION を追加したのもポイントだ。
シンセサイザー部
音源部は操作系もサウンドもしっかりと Roland SH-101(というより SH-01A)、矩形波とノコギリ波・ノイズにサブオシレータのミックスという豪華なセッション。これで音作りはカナリ楽しめる。
S-1 特有の OSC DRAW や OSC CHOP はメニュー配下に隠れているが、SH-101 の操作系をよく再現しており、LFO – OSCILLATOR – FILTER – ENV 、そして DELAY & REVERB と分かりやすく並んでいる。一般的なシンセサイザーでは省略されがちな LFO(と各エリアの LFO ノブ) もちゃんと再現されている。
ノブの数は厳選されているが、詳しくは後述する SHIFT + ノブ操作のパラメータアサインが的確で、音作りにおおける操作性は非常に高い。頭の中に SH-101 のレイアウトが浮かぶ人はまず問題なく操作できる。やはりアナログシンセ(がコンセプトのシンセサイザー)はツマミを動かしてナンボなのであって、目の前でいろいろ試せるのは楽しい。
パフォーマンスを意識した秀逸なキー配列
S-1 はパフォーマンス(演奏)のこともしっかり考えられている。2オクターブの鍵盤キー、使いやすい場所にある HOLD キー、そして鍵盤のオクターブ操作を行う OCT-/+ キーが左端の黒鍵にアサインされている。そして、右側黒鍵のPOLY モード、ポルタメントのアサインもいい。演奏中にアクセスしたい機能は MENU を掘らなくても辿り着ける。
自分はすぐに DAW に接続してしまう派で、ハードウェアのシンセでも鍵盤は KOMPLETE KONTROL S-1 で弾くタイプなのだが、コイツは DAW に接続してからも本体で操作が完結する。ここらへん、SH-01A より使いやすい。
シーケンサー
S-1 は音色とシーケンスパターンをセットで記録するプリセット構造になっている。最大 64ステップのシーケンサーはノブ操作も記憶してくれる。ちなみに 2バンクは空バンクになっているので、プリセットを壊したくない派は 2バンクで遊べばいい。
小さなデバイスにシーケンスを入力するのは面倒で、DAW 使っちゃう派なんだけど、Roland のシーケンサーは LAST ボタンで変拍子のシーケンスを組むのが簡単でイイ。小節の長さを指定する LAST は SHIFT + 4 でダイレクトでアクセスできる。パターンの再生途中に LAST で変拍子にするようなプレイは DAW では難しいだろうね。
DAW 連携も抜群
コンパクトなシンセ・ガジェットは KORG の Volca シリーズがハシリだとは思うが、AIRA Compact シリーズは Roland Boutique の開発経験なのか、明らかに PC/Mac との連携がしっかりしている。USB-C で接続すれば、MIDI / AUDIO の両方をやりとりすることができる。さすがに MIX IN のオーディオは USB-C にルーティングされていないので、オーディオインターフェイスとしては使えないが、DAW からしっかり S-1 が MIDI/AUDIO で認識されるのは心理的安定性が高い。
Mac は複数のオーディオハードウェアを統合したセットアップが可能。DAW に接続する可能性があるハードウェアをこのプロファイルで管理しているのだが、並んでいるのは Roland 製品ばかり。うん、Roland サイコー。
D-MOTION
そして、S-1 には D-MOTION が搭載されている。Roland の機器は結構持ってるけど、D-MOTION は初めてだ(D-BEAM もないな)。D-MOTION でどんなパラメータがコントロールできるのかマニュアルをチェックする。
本体の両側をしっかり持ち、右手親指などで [D-MOTION] ボタンを押します。
お、おう。D-MOTION ボタンを押している間だけ、エフェクトがかかるのか!
左右方向が Roll、前後方向を Pitch と呼び、Roll / Pitch には、モジュレーション、フリケンシー、レゾナンス、ピッチベンド、パン、エクスプレッション、ディレイレベル、リバーブレベルを割り当てることができる。ディレイやリバーブのミックスがアサインできるのが面白い。
AIRA Compact S-1 "D-MOTION"
シンセを傾けることが演奏になる時代
左右に Frequency 、縦に Delay Mix を設定#AIRA #Roland #AIRACompactS1 pic.twitter.com/jAL4mhxiiB— 波形研究所 気になるニュース🇺🇦 (@waveformlab) 2023年6月14日
AIRA Compact S-1 と Roland Boutique S-1 を比較してみる
自分は Roland Boutique SH-01A も持っているのだが、パラメータを見比べてみても遜色ない。SH-01A が S-1 に明らかに優っている点としてはデジタルオーディオ入力。S-1 は 44.1KHz 固定だが、SH-01A は 96KHz も使える。あと、ピッチベンドとモジュレーション用のセンサーとCV 用のアウトがあることくらい。
基本的なスペックも音源部においてはだいたい同じ。同じセッティングにすると SH-01A が少し大人しい感じはするものの(スライダーとツマミのバリュー出力の違いかもしれない)、出音は同じ感じ。どちらも、ACB 音源だ。MONO / UNISON / POLY / CHORD 機能を備えた 4音ポリというのも同じ。
操作性としては、SH-01A と比較すると絶対的にボタンが少ない S-1 だが、シフトボタンを押しながらダイヤルを回すことで、多彩な入力を実現している。例えば、OSCILLATOR の PULSE WIDTH は SHIFT + 矩形波ツマミ、SHIFT + RANGE ツマミでファインチューニングと、アサインが秀逸で覚えやすい。そして、SH-01A のスライダーより、S-1 のツマミの方が操作しやすい感じがする(笑)。SH-101 ってパラメータの変化が一定でなくて、急激に変化するポイントがあるんだけど、ツマミの方が追い込みやすいね。
Roland Boutique SH-01A は 2017年の製品。SH-101 の ACB ソフトウェアは完成していたのだから、コンパクト製品を作るのも簡単だろう。しかし安易に小型化するのではなく、リチウムバッテリー内蔵で D-MOTION 対応、コーラスやディレイ、リバーブを搭載しつつコンパクトになりました、と仕上げてきた。うん、上出来だ。
個人的には直観的な Roland Boutique SH-01A が好みだし、DTM 部屋に常時セッティングとなっているので、ハードウェアを使う場合(もしくは MIDI キーボードを使う場合)は、SH-01A でキマリだ。でも、リビングのソファでウニウニするには S-1 に勝るものはない。
このシンセが2万円で変えるのは凄い
Roland Boutique シリーズもそうだが、往年のシンセサイザーの名機を 5万円そこそこ、AIRA Compact はソックリコピーではないものの、2万円台で買えてしまうのは凄いことだと思う。AIRA Compact シリーズのシンセサイザーは J-6 があったが、これはコード・シンセサイザーであり、JUNO-60 のサウンドを再現している一方で、サウンドはプリセットから選んで、フィルターとエンベロープを弄るくらいで、音作りは出来なかった。
そりゃ、本格的なシンセサイザーは Roland Boutique があるからな、と油断していたが、「よくもまぁ、こんなコンパクトな筐体に、しっかりとしたシンセサイザーを」というのが正直な感想。
アナログシンセサイザーの勉強は SH-01A など、シフトキーを使わずとも、全部のパラメータにアクセスできたシンセの方がオススメだが、SH-101 の各機能を覚えてしまった人には、S-1 はコンパクトで使いやすいシンセサイザーだ。
キーボード(にホールドキー)、D-MOTION と演奏するタイプの人に向けても死角なしだ。
思ったんだが、AIRA Compact シリーズをいろいろ並べて演奏する際に、全部の機種に D-MOTION が付いていたら、アレコレ大変そうだから、S-1 に絞って搭載したんじゃなかろうか。
S-1 を 2台買って、コードパッドとアルペジオ、それぞれ D-MOTION で傾けて演奏するのも楽しそうだ(笑)。
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