
Native Instruments の「予備的破産手続き」の報道に関する話。個人的には「いつか来た道」という感じ。情報の整理と考察。
報道の内容 – 予備的破産手続き
Native Instruments GmbH is in preliminary insolvency – CDM, Create Digital Media, GmbH in Berlin によると、Native Instruments GmbH は「予備的破産手続きを開始した」とのことだ。
破産関連の文書によると、ベルリンに拠点を置く Native Instruments GmbH(iZotope、Plugin Alliance、Brainworx の親会社でもある)が、予備的な破産手続き(preliminary insolvency proceedings)に入ったことが明らかになった。
According to insolvency documents, Berlin-based Native Instruments GmbH (also parent to iZotope, Plugin Alliance, and Brainworx) is in preliminary insolvency proceedings.
自分も含め、多くの人が読んだのがこの報道だろう。
ドイツの preliminary insolvency proceedings(仮破産手続き・保全管理手続き)は、日本の民事再生・会社更生などの再生手続きにおける保全処分・保全管理期間に相当するもので、会社資産の散逸を防ぐ仕組み。事業運営が困難になった(支払不能状態、もしくはそれが近々見込まれる段階で)、現状の資産を一旦凍結して、会社資産の散逸を防止するのが目的だ。
日本でも、支払不能・債務超過などで “いわゆる倒産” した企業でも、民事再生法などを適用して、事業を続けながら債務整理を行い、再建を図るスキームがあるが、この手続きの前の保全手続きをした、ということのよう。
日本の代理店である Media Integration は Native Instrumentsに関する報道について で、「現時点で事業停止や破産を確定するものではなく、以降の決定まで国内ユーザー様への弊社日本語テクニカルサポートなども継続して実施されます。」と説明している。そんな状況です。
今使っている製品への影響
短期的に今使っている Native Instruments の製品が今すぐ使えなくなる、ということはないだろう。現在の Native Instruments の製品は、Native Access というソフトウェアを介して、製品のダウンロード・製品認証を行なっているが、コイツが使えなくなる(Native Instruments のサーバがシャットダウンされる)までは、普通に使うことが出来るだろう。ちょっとしたアップデートすら提供されるかもしれない。
ちなみに、Native Access 前の Service Center 時代の EULA には「Native Instrumentsがいかなる理由であれアクティベーションキーを提供する義務を果たせなくなった場合、コンピュータの変更に左右されずソフトウェアの継続使用を保証するキー(Permanent Key)をライセンシーに提供する」という文章があったが、現在の EULA にはそんな記述は見当たらない(涙)。
Native Access / Native Instruments のライセンスサーバが動き続ける限り、手元の製品はこれまで通り動作させることができるだろう。「いつまで使えるのか」は分からない。Native Instruments が倒産し、事業を停止するまでだ。その未来は来るかもしれないし、来ないかもしれない。
現状、そして短期的に起きるだろうこと
今回の事象の原因は、「Native Instruments のプロダクトがダメダメで、事業収益が枯渇して事業運営ができなくなった」というより、「iZotope や Brainworx などの買収を通じた音楽制作製品のコングロマリット化が頓挫し、資金が尽きた」というのが現実に一番近い、というのが業界の見立てだ。では、なんで複合企業を目指したかといえば、前回の資金調達の計画が「これで成長してみせますから」というものだったから。
Native Instruments 単体での事業運営では成長できないという経営環境下で、運営資金を確保するために複合企業を目指し再起をはかったが、それも難しかった。このままでは資金がショートする、となると新しい資金提供先の開拓や、Native Instruments の(成長はしなくても、現状の音楽制作領域で重要なポジションを占めている)強力な事業資産を活用した企業提携・買収・売却を考えただろう。
で、「現経営陣がいろいろ回ったが、ダメだった」というのが現状のステータスだと思う。M&A のデューデリ期間の資産の散逸を防ぐ目的で予備的破産手続きを開始したという考えもあるかもしれないが、それは事業売却交渉中に現経営陣が資産を勝手に売却しそう、移動させそう、という動きがあるということなので、スムーズな事業承継プロセスではなくなってしまう。
「ちょっとこのままではダメみたいです、現在の資産状況を整理しますので、どこか買収を検討できませんか?」というステージなのかな、と。
いつか来た道
ネットに見られる「もうだめだ!・終わった」「だまされるな!問題なく製品は使えるんだ!」「代理店は大丈夫だって言ってる」「いや言ってない!」なんて議論をみていると、あーこれ、なんか懐かしいなぁ、と思ってしまう。いや懐かしくない、トラウマだ。
歳を重ねると、企業や事業・製品がディスコンになる時に代理店やユーザが右往左往する感じは何度も経験する。自分が Web で情報発信をするキッカケになったのは、Apple Newton のディスコンだったし、面白い製品を出していた会社が存続できずに散っていくのを何度も目撃した。そう、最近では業界のデファクトスタンダードでもあった採譜ソフトウェア、Finale の事例もある。
Newton ディスコンの時は、Apple(Steve Jobs)、Newton Inc(開発チーム)、アップルジャパン、販売店、関連ソフトウェア開発会社、フリーランスの開発者、グローバルユーザコミュニティを巻き込んだ巨大な渦が発生し、それぞれ関わった人々の人生に傷を残し、コンピュータ史にも刻まれることになった。あれは苦しい出来事だった。
最近では、あの Finale が消えてしまった。ニュースを聞いた誰もが「Finale がなくなることはないだろう」と考えただろう。でも、あっけなく消えてしまった。素晴らしい地位を築いたプロダクトでも、成長しないと生存できないんだ、という、ごくごく簡単な事実を思い知ることになった。
自分の音楽は Native Instruments の製品で作っている。DAW は MOTU Digital Performer でも Ableton Live でも、なんなら Apple Logic Pro でもいい。でも、MASCHINE やプラグインが使えなくなるのは辛い。それは、過去のプロジェクトは動かなくなり、音楽制作環境をほぼゼロから作ることを意味するからだ。
既に合併や買収シナジーがありそうな企業は検討されただろうから、「これから」となると、ちょっと距離のある会社が買収することになるのかもしれない。
(ギブソンを除く)音楽産業に理解がある会社が買収してくれることを切に祈る。Apple が買収する可能性は低いが、買収する際は Apple Creator Studio 方向ではなく、Claris FileMaker 的な子会社の位置付けを望みます。


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