
所有しているモジュラーシンセサイザーについて、調べたスペックや使い方を自分なりに整理するシリーズ。今回は Mutable Instruments Warp について。
Mutable Instruments Warps – Meta Modular
巨大で光るノブをまわすと、発するカラーが妖しく変化する。 Mutable Instruments のモジュラーの中でも強烈なルックスを放つのが、この Mutable Instruments Warps だろう。「コイツはどんなサウンドを出力するんだ?」と期待せざるを得ない。
Émilie Gillet は Mutable Instruments の事業運営を既に終了させているので、モジュラーは中古市場からの調達が前提になるが、この Warps はなかなか出てこない(Warps は 2015年11月リリース、2022年3月にディスコンになっている)。Mutable Instruments のモジュラーの大半はハードウェア設計やファームウェアの仕様を公開しているので、Warps にも優秀なクローン製品がいくつかあるのだが、昨年末に Mutable Instruments の実機をやっと手にいれることができた。

Mutable Instruments Warps は「入力された2つのオーディオ信号を様々なアルゴリズムでクロス・モジュレーションさせるメタ・モジュレーター」だ。シンセサイザーの発音部によく配置されているクロスモジュレーターで、キャリア(A)とモジュレーター(B)の入力をクロスフェードから波形整形、リングモジュレーション、ボコーダーまでを連続的に合成して全く違った音を作るアルゴリズム変調器だ。Mutable Instruments らしく、古典的アナログ回路の質感を保ちつつ、デジタルならではの荒さ・明瞭さも実現しているのが面白い。
2つの入力といっても、Warps はオシレーターを内蔵しているので、1入力 + Warps の構成で楽しめる。この内部オシレーターは波形も多彩で頼りになる。

詳しい説明書は Mutable Instruments Warps Manual を参照して欲しい。
7つのモジュレーション・アルゴリズム + 連続モーフィング
Warps は7つのモジュレーション・アルゴリズムを搭載している。まさにオーディオ変調のデパートである。
- クロスフェード(Crossfade)
- クロスフォールディング(Crossfolding)
- ダイオード・リングモジュレーション(Diode ring-modulation)
- デジタル・リングモジュレーション(Digital ring-modulation)
- XORモジュレーション(Exclusive-or modulation)
- オクターバー / コンパレーター(Comparison and rectification)
- ボコーダー(Vocoder)
キャリアとモジュレーターは、コンスタント・パワー(定電力)の法則を用いてクロスフェードされる。TIMBREはクロスフェードの位置をコントロールし、12時の位置で両方の信号が均等にミックスされる。
キャリアとモジュレーターが加算(ミックス)され、音にスパイスを加えるために微量のクロス・モジュレーション生成物が付加される。その結果生じた信号はウェーブフォルダーへと送られ、TIMBREでそのかかり具合(ウェーブフォールディングの量)をコントロールする。
ダイオード・リングモジュレーターのデジタル・モデルを使用して、キャリアとモジュレーターを粗く乗算する。TIMBREは、その結果生じた信号に対し、可変ゲイン(およびエミュレートされたダイオード・クリッピング)によるポストプロセッシング(後処理)を行う。
ひとつ前のアルゴリズムをより穏やかにしたもので、デジタル領域で正確な乗算処理を行う。TIMBRE は信号にゲインブーストとソフトクリッピングを加えて後処理する。
キャリアとモジュレーターの両方を 16-bit 整数に変換し、得られた2つの数値をビット単位で XOR(排他的論理和)演算する。TIMBRE は、どのビット同士をXORするかを制御する。
オクターブ・ペダルに特有の比較演算および整流演算を通じて、いくつかの信号が合成される。TIMBREは、これらの信号間をモーフィングする。
クラシックなアナログ・ボコーダーを再現したデジタル・モデル。20の分析用フィルターと、20の合成用フィルター(3分の1オクターブ、48dB)を備えている。モジュレーター(入力信号)のサブバンド信号は、エンベロープ・フォロワーによって処理され、それがキャリア(搬送波)の各サブバンド信号のゲインをコントロールする。
TIMBRE(音色): モジュレーターのエンベロープ・フォロワーとキャリアのゲイン要素との間の「接続」を歪ませる。これにより、モジュレーター信号から抽出されたフォルマントを実質的に上下にシフトさせることができる。
ALGORITHMノブ: 時計回りに回すほど、エンベロープ・フォロワーのリリース・タイムが長くなる。
フリーズ機能: ノブを右いっぱいに回し切ると、リリース・タイムが無限になり、キャリアの**スペクトル・エンベロープ(周波数特性)が固定(フリーズ)される。
これらのアルゴリズムは選択式ではなく、ノブを回すことにより各アルゴリズムがモーフィングされ、サウンドを連続的に変化させることができる。また、TIMBRE によりアルゴリズムの一番美味しい変化をコントロールできる。
変調のイメージがつかない人は YouTube で動画を確認するといいだろう。
ちなみに、これは試したことがないんだけど、裏モードで Frequency Shifter を呼び出せるらしい。そんな記事を見かけたのでメモしておく。
隠しモード(Frequency Shifter)の起動:
- 準備: すべてのパッチケーブルを抜きます。
- ノブの設定: TIMBRE ノブと2つの LEVEL ノブ(計3つ)を左いっぱいに回しきります。
- 暗号の入力: メインの大きな ALGO ノブ(中央の大きなノブ)を使って、以下の順番で位置を合わせ、その都度 INT. OSC ボタンを押します。
- 「2」の位置に合わせて、ボタンを1回押す
- 「4」の位置に合わせて、ボタンを1回押す
- 「3」の位置に合わせて、ボタンを1回押す
- 「6」の位置に合わせて、ボタンを1回押す
- 「1」の位置に合わせて、ボタンを1回押す
- 「5」の位置に合わせて、ボタンを1回押す
隠しモードでの操作:
ALGO ノブ: 周波数のシフト量を調整します。
12時方向:シフトなし
右に回す:プラス方向にシフト
左に回す:マイナス方向にシフト
INT. OSC ボタン: キャリアの波形(サイン波、3倍音、ランダムなど)を選択できます。
TIMBRE ノブ: 上側波帯(Upper sideband)と下側波帯(Lower sideband)のバランスを調整します。
元の通常モードに戻したい場合は、同じ手順(暗号の再入力)を繰り返してください。
Google Gemini は 243615 という暗号の由来をこう説明している。
「Mutable Instruments の設計者である Émilie Gillet は、この隠しコマンドにフランスの作曲家 オリヴィエ・メシアンが考案した「移調の限られた旋法(Modes of limited transposition)」の第2番を忍ばせています。
Gemini、お前はよく知ってるね。
第二形態:Parasites(代替ファームウェア)
Warps にはコミュニティから生まれた代替ファーム Parasites(パラサイツ)があり、Warps を第二形態に変身させることができる。Parasites ではアルゴリズムの切り替えはモーフィングしないのでモジュラーの操作性が変わってしまうのだが、「9つあるモードの1つとして純正の機能(Meta-mode)が収録されている」という形になっているため、ファームを切り替える必要がなく便利だ。
Parasites ファームウェアの導入方法は、Mutable Instruments 公式のファームウェアアップデート手順と全く同じ。オーディオ信号(音声ファイル)をモジュールに入力して書き換えるという独特な方式をとる。
- PCやオーディオインターフェースの音声出力と、Warpsの Carrier Audio Input (Input 1 / 左側の入力ジャック) をパッチケーブルで接続する
- INT. OSC ボタンを押したまま、モジュールの電源を入れる(アップデート・モードで起動)
- INT. OSC のLEDがオレンジ色に点滅すれば、受信待機状態
- ファームウェアを再生する
- 再生中、ALGORITHM ノブの色が信号レベルを示す(緑 または 黄色が適切なレベル、赤はオーバーレベル)
- LEDが赤く点滅した場合はエラー。音量を調整し、INT. OSCボタンを押してリトライする
- 最後まで再生が完了するとモジュールが自動的に再起動し、新しいファームウェアで使用可能になる
- INT. OSC ボタンを押しながらビッグノブを回すことでモードを変更できる
- 純正モード(Meta-mode)は上記操作でノブを右側に回し切る(9番目のモード)
クローン機には Parasites がデフォルトで導入されているものもある。かなり強力なファームなので、Parasites を使いたいならば(価格的にも)クローン機を試してみるといいと思う。自分がいつもお世話になっている CLOCKFACE MODULAR さん の説明を読むと、Michigan Synth Works Twis とかは Parasites で導入されているみたいだ。デザインは TLM Audio METAX の方がかっこいいかもね。

ワイルドな変調から狙った音作りまで

Warps はクロスモジュレーターで音を過激に金属的に変調させる、ということもできるんだけど、意外にも狙った質感を作る音作りモジュールとしても使うことができる。モノラルオーディオ(基本、Warps はモノラル)ならば、とりあえず Warps を通しておいて、フィルターとは違った方向でサウンドを変化させたい時にノブを回してみる、という使い方も面白いかもしれない。
大きいノブが光ってたら回してみたいじゃない。で、導入すると意外にも使うシーンが多いので、おすすめですよ。



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