
Roland Boutique JX-08 について書く。ソフトウェアベースのシンセサイザーは多様なシンセシス・メソッド(発音方式)、ハードウェアに縛られないゴージャスな仕様、音色のパラメータの視認性も高く、なんせ場所を取らない。でも、最近の Native Instruments の経営状況の話を考えると、やはりリスクを感じる。ハードウェア・シンセサイザーは手に入れた時点である程度、永続的な価値を保証してくれる。かといって、レジェンダリーな大型シンセサイザーをいくつも並べるのはアマチュアのシンセ愛好家であっても非現実的だ。
そう考えると、Roland Boutique シリーズはシンセサイザーの名機を手元におきたいシンセサイザー愛好家の最適解なのかもしれない。先日オークションで手に入れた Roland Boutique JX-08 はその仕様から、ベースとなる Roland JX-8P の最適解でもある。
Roland JX-8P

JX-08 を語るには Roland JX-8P の紐解きから。Roland JX-8P は、1985年に発売された6ボイスのポリフォニック・アナログ・シンセサイザー。
1音につき2つのDCO構成で6音ポリというのはゴージャスだ。1DCO で8音ポリ、2DCO で4音ポリなんて時代にテンション付き和音+ベース音が弾ける6音ポリ。しかも、当時のアナログシンセとしては珍しいベロシティ(タッチセンス)とアフタータッチ、最新技術の MIDI も搭載した。
アナログらしい温かみのあるシンセストリングス、パッド、ブラスサウンドが素晴らしく、Europe の Final Countdown のファンファーレサウンドが有名だ(Roland JX-8P + YAMAHA TX-816 の組み合わせらしい)。
1985年はリアルタイムで体験した時代なのだが、当時は KORG POLY-800 や Roland JUNO-106 などのリーズナブルなポリフォニック・シンセサイザーが登場し、バンドブームの高校・大学生にも普及しはじめていた。ミドルクラス(20万円前後〜)では、YAMAHA DX-7、KORG DW-8000や CASIO CZ-5000 、Roland JX-8P、ちょっと遅れて KAWAI K3 が発売される時代(これが3年くらいで次々に発売されたんだから凄いよね)。
異次元のサウンドを実現した世界初のフルデジタルシンセサイザー YAMAHA DX-7 が脚光を浴びていた当時のキーワードは「デジタル」。自分の記憶ではデジタルシンセサイザーという言葉はあったが、アナログシンセサイザーという言葉はなかったと思う(だって、それまでのシンセサイザーはみなアナログだったんだから)。
この Roland JX-8P もアナログ・シンセサイザーながら、DCO(デジタル制御のオシレータ)を搭載している。2つの DCO とクロスモジュレーションを搭載することで、柔らかく暖かいサウンドから金属的なサウンドまでを発音できた。前述通り、MIDI やベロシティ+アフタータッチに対応し、Roland らしいアナログコーラスを内蔵。DX-7 のようにフロントパネルはパラメータを呼び出すためのボタンと液晶ディスプレイが整然と配置され、スライダーは6つのみ、という設計だった。
この「パラメータをボタンで呼び出して、スライダーでバリューを設定する」というのが当時の流行で、自分が最初に買った KORG POLY-800 もそうだった。ちなみに、この時期にシンセサイザーを触りはじめたユーザはシンセサイザーの回路を直感的に理解できなかったと思う。Moog(実機を見る機会はなかった)のように、「ダイヤルをまわすと音が明るくなる」といった音作り体験はなく、コンピュータプログラムのロードよろしく、ポチポチと呪文のような数字を打ち込んでいく感覚が「デジタル」だと思い込んでいた(笑)。
音作りをバリュー入力するのは大変なので、JX-8P は音色のプログラム用に PG-800 というエディタが発売されていた。この頃からシンセサイザーは音作りするものではなく、ステージでプリセットをリコールして使うものに変化したんだと思う。
Roland Boutique JX-08

で、やっと Roland Boutique JX-08 の話。JX-08 は JX-8P を再現したコンパクト・シンセサイザーだ。ABM(Analog Behavior Modeling)技術により JX-8P の回路をモデリング、JX-8P のパッチを2音までレイヤーできるマルチティンバー構成、(公式には発表ないが)20音ポリくらいの同時発音数を持つ。8音ポリフォニック・64ステップ・シーケンサー、アルペジエーターを内蔵。さらに、JUNO-106譲りのコーラス、SDD-320のリバーブ、ディレイ、ディストーションなど計17種類を搭載している。オリジナルJX-8Pからの32種類のプリセット音色に加えて111種類の新規プリセット音色を追加、ユーザプリセットを含め、256音色をメモリーする。
Roland Boutique 共通の USB(JX-08 は USB-C)による給電、MIDI IN/OUT、オーディオ出力により DAW との連携もスムーズ。このコンパクトなボディにこのスペックは文句の付けようがない。
そしてインパネ。PG-800 の思想を受け継いで、音色パラメータをスライダーで操作できる。これにより、「ああ、JX-8Pってこういう構成のシンセサイザーだったんだ!」と全人類が理解したんだと思う。
2系統の DCO + クロスモジュレーション(X-MOD/SYNC)、ハイパス・ローパスフィルタ、そして 2系統のエンベロープ
クロスモジュレーションによる音作りとしては、SYNC によるリードサウンド、X-MOD による金属音・過激なディストーションサウンドあたりがキモ。
フロントパネルにない音作りポイントとしては、ベロシティによりミキサーエンベロープを制御できるので、強く弾くと金属音が鳴る、なんて仕掛けができる。あと細かいけど、ポルタメントのグライドカーブに非線形カーブ(最初に変化が大きいなど)を選択できる。これはリード弾きでポイントが高いね。
サウンドは本当にファットな包み込むようなサウンドがいい。DCO 2 の FINE TUNE や搭載されているコーラスで音の揺らぎが気持ちいい。前述の1985年頃の話で、JUNO-106 は「コーラスをオフにすると音がショボくなる」とよく話していたんだけど、やはり強力。オンにするとサウンドががらりと変わる。当時、JUNO-106 のサウンドをヘッドフォンで聴いた経験はなかったんだけど、JUNO コーラスをヘッドフォンで聴くと感動する。
Roland JX-08 Editor and Controller
Roloand Boutique シリーズを含むハードウェア・シンセサイザーのエディターソフトを作っている Momo 氏が、Roland JX-08 Editor and Controller を作っているので紹介しておく。JX-08 をはじめとするハードウェアシンセサイザーを MIDI 経由でサウンドパラメータを送信し、DAW の UI から音色をコントロールできる。なので、DAW 側でオートメーションも組める、というもの。
ソフトウェアベースのシンセサイザーはプリセットを読み込んだ時に音色のパラメータがリコールされるので、画面に表示されているパラメーター位置が音色そのままの設定値になっているので、音作りがしやすいんだけど、バリューセット型のハードウェアシンセサイザーは、動かしたところだけが音色に反映されるので、ちょっと分かりにくい。
momo 氏に「音色パラメータを読み込むボタンを付けられない?」と尋ねたところ、「そうだね、でも、シンセから設定を読み込む方法が公開されてない」とのこと。残念。
彼はたくさんのエディターを作っているので、対象のシンセオーナーで興味がある人は購入してみて欲しい。





































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